「リオ再戦」は山口に軍配が上がった。女子シングルス準々決勝で、山口茜(19=再春館製薬所)がリオデジャネイロ五輪銅メダリストの奥原希望(21=日本ユニシス)をストレートで破った。1-2で敗れた五輪の反省をもとに、緩急ある攻撃で奥原を苦しめ、8度目の対戦で初めて勝利した。

 いつも通り、山口には勝利の笑顔もガッツポーズもない。それでも「初めて勝ったので、率直にうれしかった」と胸には充実感があふれていた。コート越しに握手を交わした奥原からは「頑張ってね」と声をかけられた。「今度は私が頑張る番」。五輪で敗れて涙してからわずか1カ月。最も近く、大きなライバルを倒し、13年以来3年ぶりの優勝へあと2勝とした。

 リオで奥原が首にかけている銅メダルを見たとき「同じ日本人としてすごい」とたたえる一方、自分にとってメダルは「ものでしかない」と感じた。経験してもなお、山口にとって五輪は特別な舞台とは思えなかった。奥原に敗れた悔しさの中で「自分より強い人に勝つ。それがバドミントンをやっていて一番うれしいこと」と再認識した。故郷の福井・勝山市で、技術もパワーも上まわる年上の男性に立ち向かっていったのが山口の原点。「1度も勝ったことがないので、率直にうれしい」。奥原からの初勝利は何より価値のあるものだった。

 魅せる意識も働いた。「ある人から『奥原が勝つのは予定通り。山口が勝った方がメディア受けがいい』と言われた。盛り上げ役は嫌いじゃない。ちょっと頑張ろうかなと思った」。ジャンピングレシーブや、鋭いスマッシュなど意表をつくプレーでも会場を沸かせた。生きたのは五輪の敗戦だ。「リオ五輪まではさくっと負けていた。でも1ゲームを取ったことで勝負出来るイメージが持てて、自信を持って戦えた」。五輪の映像を見返し、力いっぱいの攻撃を続けてスタミナ切れしたことを反省。緩急をつけたメリハリのある攻撃を心がけた。

 「今度この勝利で少なからず何かが変わるかな」。うれしさから、前向きな言葉がどんどんあふれる。「まだ若いので、1つ1つの試合が経験になっていく」。まだ19歳。奥原を破り、また1つ階段を上った。【高場泉穂】

 ◆リオ五輪女子シングルス準々決勝VTR 8月16日、「山口VS奥原」のバドミントン界初となる日本人対決が実現した。山口は試合開始から全力で強打で攻め続け、第1ゲームを21-11と制し、7度目対戦で初めてゲームを奪った。だが、第2ゲーム以降は前後左右に揺さぶる奥原の正確なショットに体力を奪われ、17-21、10-21と逆転負けした。