全体的に11月は練習期です。みんなウエートトレーニングをしている中での試合ですが、平井伯昌ヘッドコーチのもと、アジア選手権ということで「中国に勝つ」という明確な目標を持ってチームがまとまっている。そんな中で、男子100メートル平泳ぎで渡辺一平選手(早大)が59秒99の自己ベストで優勝しました。

 先日の中東シリーズでW杯全戦を回り、自信をつけて帰ってきました。その渡辺選手は8月のオリンピックの前まで、坂井聖人選手と2人でずっと練習してきてました。その坂井選手が男子200メートルバタフライの銀メダリストで、自分は200メートルの準決勝で2分7秒22のオリンピックレコードを出したけど、決勝では6着。その結果を受け止めていると言っていました。

 気持ちの変化っていうのが、オリンピックに出て彼を変えたんじゃないかなと思います。「勝ちたい」「強くなりたい」「メダルを取りたい」。だからこういう試合で目標をしっかり持って戦っていくという「ハウツー」を見つけたのだと思います。どの試合もオリンピックにつながっているということを。

 そして所属する早大には歳の近い選手で瀬戸選手、坂井選手がいます。そこで才能が開花したてきたなという印象です。(193センチと)長身の渡辺選手の、その特長は肩の柔らかさ。遠くから水をキャッチしてかける、本当に平泳ぎの肩をしている。そして何より59秒台の記録が出てよかったなと思います。1分と59秒99では全然違う。1分の壁を破ったことは大きいです。

 今回のリオのオリンピックで、日本チームは400メートルメドレーリレーでメダルが取れなかった。その原因というのは、100メートルの個人種目でメダリストがいないところにあります。そういう意味では100メートルの強化、100メートルの選手を育てるというのが、日本全体の課題なのかと思います。50メートル、100メートルの強化という意味では、200メートルを得意とする渡辺選手が追い込んだ練習をしている中でベストを出したというのは価値がある。こうやってしっかり100メートルを頑張ってくれることで、200メートルにも相乗効果があると思います。

 11月は泳がなきゃいけない時期なので、練習の反動はあります。ただ彼らはまだ若い。20歳、21歳なので、こういう試合はタフになるチャンス。しかも長水路で世界の選手とやるということで雰囲気も変わってくる。目的を持って目標を達成できたというのは価値があると思います。19日の200メートルは2分7~8秒で泳ぎたいと言ってました。

 また、この日の女子50メートルバタフライ、50メートル自由形の2種目を制した池江璃花子選手もそうですが、短距離で世界のこういう舞台で優勝する選手がいるというのは、2020年の東京五輪に向けて大事なことだと思います。

 今回の日本代表チームはキャプテンは男子が瀬戸大也選手、女子が清水咲子選手。リオを経験した選手たちがまとめて、若い選手もいっぱいいる。何か新しいジャパンって感じがします。(伊藤華英=北京、ロンドン五輪代表)