五輪4連覇を目指した野村忠宏(33=ミキハウス)の夢がついえた。北京五輪代表の座は確実とみられていたが、前日の男子60キロ級で準決勝敗退し、評価が急落。この日の強化委員会で落選が決まった。これで現役からの引退も確実。全競技を通じてアジアでただ1人五輪3連覇を果たした偉大な選手が畳を降りる。

 04年のアテネ五輪で3連覇を達成した後、一時は競技を離れた。「もう1度」の思いで06年1月に復帰宣言。しかし、その後は決して順調ではなかった。昨年4月の体重別で復活優勝を果たしたが、5月に右ひざ前十字靱帯(じんたい)を断裂。復帰後も「再びやったらと不安」とこぼしていた。体力や技の切れは戻っても、常に不安との戦いはあった。

 そんなギリギリの現役生活を支えていたのが「北京での4連覇」だった。「負ければ最後」の思いで2月のドイツ国際、今大会に臨んだ。しかし、結果は出なかった。「ベテラン野村よりも、若い平岡の勢い」が強化委員会の結論。唯一の心の支えを失って、これ以上続けるのは難しい。

 これまでは「優勝できないのなら、五輪など行っても意味はない」とまで言ってきた。それだけ自信も、プライドもあった。しかし、前日の会見の最後には「五輪に行きたい。チャンスがもらえたら」と、強気な男が初めて弱気を見せた。次のロンドン五輪は37歳。体の衰えとともに、気持ちも持たない。「北京の金で引退」という青写真は代表選考で崩れた。時期が前倒しになるのも間違いない。しかし、たとえ野村が畳を降りても、その偉業が色あせることはない。