<大相撲夏場所>◇7日目◇12日◇東京・両国国技館

 境川部屋の3人が、大波乱を巻き起こした。妙義龍(25)と豪栄道(26)が大関陣を連破すると、結びの一番で東前頭3枚目の豊響(27)が初の金星を獲得。横綱白鵬(27)を小手投げで破り、男泣きした。全勝だった大関琴奨菊(28)が敗れ、3大関を含む5人が1敗で並ぶ大混戦。今日13日の中日から、大関戦が始まる。

 豊響は、あふれる涙を止められなかった。立ち合いから白鵬にもろ差しを許し、下がりながら小手投げ。軍配は白鵬に上がったが、物言いがついた。協議の末に告げられた「行司差し違え」。アナウンスを聞くと、土俵の向こう側に審判として座る境川親方(元小結両国)と目が合った。直後、「猛牛」の異名を取る男の目から熱いものがこみあげた。勝って泣くのは、初めてだった。

 座布団が舞う中、顔をくしゃくしゃにして引き揚げる。「気が動転して…。テレビで見る光景だなと思いました」。涙の理由は、親方への思いだった。「ここまで育ててもらったんで…。いいところを見せようと土俵に上がったんで、良かったです」。横綱戦は3度目。初めて大関を倒した場所で、金星まで手にした。

 「鬼(自分)は泣かないです」という境川親方は言った。「目の手術とかいろいろあったからね。本人が一番うれしいでしょう」。山口・響高時代、全国レベルで活躍したが、卒業後2年間は造船所やトラック運転手を経験。遠回りの末、角界入りした。08年10月末、左目に網膜剥離を患い、全身麻酔で手術を受けた。頭からぶちかます、激しい押し相撲で身を削ってきた。

 春日野部屋と並ぶ、角界最多5人の関取がひしめく中、刺激し合ってきた。境川親方は「みんな年が近いから。腹の中では負けたくない、という気持ちがあるだろう。妙義龍が上がって来られたのも豪栄道と豊響がいたから」と説明した。

 この日、波乱の口火を切ったのは、かつて豊響の付け人だった妙義龍。全勝の琴奨菊を下がることなく寄り切った。同期の豪栄道は把瑠都の懐に潜り込み、外掛けで倒した。仕上げは「2つ勝ったんで、気合が入りました」という豊響。2人の存在について「刺激になります。一緒に部屋を盛り上げたい」と話した。ファンによる敢闘精神評価アンケートは、初めて同部屋の3人が上位を独占した。

 史上初の6大関が話題になった場所で、上位を引っかき回した境川勢。全勝力士がいなくなり、1敗が5人で並ぶ大混戦を演出した。【佐々木一郎】