<大相撲夏場所>◇9日目◇14日◇東京・両国国技館

 稀勢の里(25=鳴戸)が、琴奨菊(28=佐渡ケ嶽)との1敗同士の「日本人大関対決」を制して初優勝に前進した。初土俵と大関昇進が1場所違いのライバルを肩透かしで下し、賜杯レースの先頭をキープ。勝ち越しも決めた。

 転がるライバルを悠然と見下ろした。稀勢の里にとって今場所初の大関戦。過去12勝25敗の苦手を破り、初Vへの第1関門をクリアした。史上初6大関の中から頭ひとつ抜け出した。左四つから土俵際に2度詰まりながらも、タイミングよく肩透かしを決めた。

 「思い切って踏み込んで右が取れればいいと思っていた。その気持ちがあったから残せたと思うし、圧力も防げたと思う」

 初土俵と大関昇進が1場所早い琴奨菊からは「勝ち負けを超えた存在」と熱視線を送られる。これに3歳下の稀勢の里は「どうですかね」とライバル意識を隠すが、気になる存在であることは間違いない。

 好きな四字熟語を聞かれ、琴奨菊が大関昇進伝達式で入れた「万理一空かな」とジョークを飛ばしたことがある。今年初場所には2人の特製大関弁当が国技館で同時に発売。稀勢の里は「絶対に比べられるから、頑張りたい」と対抗心をのぞかせた。今場所前の二所ノ関一門の連合稽古では3日連続の対決。“前哨戦”は最終日に稀勢の里が9戦全勝と圧倒していた。

 18秒1の好勝負に、国技館も沸いた。来場者が注目の一番を選ぶ懸賞「森永賞」は、結びではなくこの取組。入場当日券も1364枚と今場所9日目で最も売れた。日本人大関対決は、新しい“黄金カード”となりつつある。

 稀勢の里は白星が続く要因を「疲れを残さないこと。今場所はちょっと早く寝てるかな」と分析。この日の朝の稽古後はトレーナーを招いて体にマッサージを施し、後半戦に備えた。

 白星8つを順調に重ね、気づけば1敗は平幕栃煌山と2人だけ。06年初場所の栃東(現玉ノ井親方)以来の日本勢優勝へ、期待が膨らむ。ただ苦手の琴欧洲や把瑠都らとの対戦が控えており「まだ半分ですよ」と先の長さを強調した。真価が問われる残りは6日間。「まあ、思い切っていきます」と充実の顔で気合を入れ直した。【大池和幸】