<大相撲夏場所>◇11日目◇16日◇東京・両国国技館

 単独トップを走る大関稀勢の里(25=鳴戸)が、命拾いの10勝目を挙げて初優勝に近づいた。大関鶴竜(26)を同体取り直しの末に寄り切り。通算連続出場800回の節目の土俵を飾り、1敗を死守した。2敗だった平幕の3人が敗れたため、3敗の把瑠都(27)琴奨菊(28)ら8人が2差で追う展開となった。

 苦しんでつかんだ勝利をかみしめるように、口をグッと結んだ。取り直しまでもつれた熱戦を制し、賜杯争いで後続に2差をつけた。最初の一番。もろ差しを許し、土俵際で苦し紛れの突き落とし。際どい勝負の軍配は相手に上がった。物言いとなったが、稀勢の里は負けも覚悟した。

 「うまくやられましたね、最初は。よくて同体くらいかと。同体をもらった時はチャンスだと吹っ切れていけた」。取り直しの一番は必死に出た。突き放し、得意の左四つから寄り切り。「自分を信じたことが一番。出足あってなんぼの相撲だから。最初からできればよかったが、ちょっと怖がったね」。プレッシャーを振り払い、節目の土俵を大きな白星で飾った。

 02年夏場所の序ノ口デビューから1度も休場せず、ちょうど800回出場をマークした。図らずも十両黒海の休場によってこの日、継続中の記録では関取最長となった。大きなけがもなく土俵に立ち続けられるのは、先代鳴戸親方(元横綱隆の里)に指導を受けた厳しい稽古の蓄積、そして体調管理のたまものと言える。

 特に注意するのが食の管理だ。「暴飲暴食をしないこと。寝る前にご飯食べたりとか。そうしたら調子悪い。最近は酒も全然飲まない」と明かす。太りやすい体質を自覚しており食事量も制限。けが防止のため、場所前の稽古中は1時間以上ストレッチを行っている。

 鶴竜との最初の一番はもつれて激しく転落した。両膝から出血したが「全然大丈夫」。取り直し前の呼吸の乱れも「全くなかった」と、肉体的な消耗を平然と否定した。両親からもらった丈夫な体で、初優勝に突き進んでいる。

 11日目以降に日本生まれの力士が2差をつけてトップを走るのは、01年秋場所13日目の琴光喜以来。この時は逃げ切って初優勝したが、稀勢の里はどうか。残り4日。横綱大関戦も3つ残している。「1日1番集中。(命拾いした)このチャンスを生かしていきたい」と、大関3場所目での賜杯奪取へ意欲的だった。【大池和幸】