<大相撲秋場所>◇14日目◇27日◇東京・両国国技館

 横綱白鵬(29=宮城野)が、新入幕で史上初めて1横綱2大関を倒した東前頭10枚目の逸ノ城(21)を上手出し投げで下した。「怪物」と称された母国モンゴルの若手成長株の壁となり、横綱の面目を保った。今日千秋楽の結びで横綱鶴竜に勝てば、千代の富士と並ぶ歴代2位の31度目優勝を達成する。

 「大横綱VS新怪物」の優勝争い大一番。白鵬が格の違いを見せつけた。立ち合いで左上手を奪った。右のかいなを返して、相手が狙ってきた左上手は許さない。右下手を引くと同時に寄って圧力をかけ、豪快な左からの上手出し投げ。192センチ、199キロの巨体を転がした。相手の力を封じる攻防をファンに楽しませるような22秒3だった。

 初顔の連勝は「23」に伸びた。「意地というか、いい壁になってという緊張はありました」。自分を脅かそうとする存在の出現に、うれしそうでもあった。「横綱、大関を倒して、それなりの重さがあったような気がしますね」。

 手応えのある力士となるのか?

 「そうなってもらいたいし、それは来場所かな。来場所も活躍してもらいたいね」。入門から5場所で優勝争い。ザンバラ髪で初の2日連続横綱戦。その経験を生かした成長を期待した。逸ノ城は「強くて最高の横綱です。全部勉強。長く土俵にいられたことがうれしい。もっともっと練習して、今日よりももっと力が通じるように頑張ります」。憧れの存在に、敗れても喜びに満ちていた。

 白鵬は、その素質を数年前から認めていた。鳥取城北高OBの大喜鵬が宮城野部屋に入門し、同校との交流が深まった。そこにいた丸刈りの少年に「オレの記録が抜かれるとしたら、この子じゃないか。宮城野部屋に入れたほうがいい」と宮城野親方(元前頭竹葉山)に話したこともある。1部屋1外国人制である以上、不可能なのは分かっている。だが、いずれ輝く原石と認めていた。何度も同校を訪れ、角界入りを勧めたのも白鵬だ。

 2人の母国モンゴルも対決に沸いた。朝青龍引退以降、低調だった大相撲人気。優勝を続ける白鵬、日馬富士と鶴竜の新横綱誕生でも再燃しなかったが、新入幕優勝で100年ぶりに日本の歴史が変わるかもしれない事態が起爆剤となった。モンゴルの世論は「逸ノ城に優勝してほしい」に傾いているという。

 国技館では「逸ノ城グッズ希望の声が殺到しています」と売店担当者。早すぎる出世に、日本相撲協会公式グッズは1つもない。

 白鵬は今日28日の千秋楽で勝てば優勝。1差で2敗の逸ノ城との決定戦の可能性もわずかに残る。対戦を終えた2人もファンも、次の対決が楽しみになった。【鎌田直秀】