これまでも鳴り物入りでプロの世界に入ったドラ1・ルーキーは何人も見てきたが、阪神の佐藤輝は同じ大卒ルーキーでいえば高橋由伸(巨人)以来の“本物”の予感がする。キャンプでは2試合を見させてもらったが、今後のプロ野球界を引っ張っていくプレーヤーになると思う。

ここまではあまりのパワーの前に、粗削りな印象を持っていた。しかし、その陰には高度な技術も隠れている。中前適時打を打った第1打席の6球目、内角高めに抜けた直球を振って三塁側へのファウルになった。見逃せばボールだが、投手は左腕の松葉でカウントも2-2。追い込まれている状況での「逆球」だった。見逃し三振をしないためにも、つい手を出してしまう球で、差し込まれたにもかかわらず、バットのヘッドを返さずに振ってファウルで逃げ、その後のタイムリーにつなげた。

並の打者であれば差し込まれたと感じた瞬間に、バットのヘッドを返して打ちにいき、内野ゴロになる。もちろん、たまたまそうなっただけの可能性もあるが、第2打席の3球目と第3打席の4球目も内角の直球に対し、同じようなファウルを打っている。こういった内角球に対し、距離を合わせて当てにいくようなスイングをしないのも、高度な技術のひとつ。もう少しタイミングが合っていたり、甘く入っていればポテンヒットや長打になっていただろう。

パワーがあるから差し込まれても気にせずにそのまま振れるのか、バッティング技術を理解した上で実践しているのかは分からない。ただ、一流の強打者が備えている技術だった。

三塁の守備も、このまま使っていけば上達すると思えるレベル。捕球後、少し体が浮き気味になったり、横回転のスローイングになるときもあるが許容範囲。大柄で器用には見えないが、身のこなしのセンスは感じる。走力もあり、肩も強い。守備に興味を失わずにやれば、外野でも三塁でもどちらでも守れるだろう。

ひとつ気になるといえば、第4打席で真ん中やや低めの直球を打って二ゴロに終わったスイング。基本的に佐藤輝はバットのヘッドを落として下からかち上げていくスイングだが、高めの球に対しては下から出るヘッドをかぶせ気味に使ってセンター方向に長打できる。しかし、甘い球や打者有利なカウントで、引っ張りの意識が強く出た場合、あおり気味のスイング軌道で打球が上がらないケースが多い。無理に引っ張らなくても本塁打できるが、やはり引っ張って打球を上げる技術が備われば“鬼に金棒”。どのように成長するか、目が離せないバッターだ。(日刊スポーツ評論家)

練習試合 6回裏中日1死、高橋周平の三塁線の鋭い打球を逆シングルで捕球しアウトを奪う阪神三塁手の佐藤輝明(撮影・清水貴仁)
練習試合 6回裏中日1死、高橋周平の三塁線の鋭い打球を逆シングルで捕球しアウトを奪う阪神三塁手の佐藤輝明(撮影・清水貴仁)