10月半ばに入った。開幕から半年が過ぎ、ペナント奪回に成功した工藤ホークスには「最後の戦い」が待ち受ける。10月は「神無月」。神ない(無)月と書くので「神がいない月」との俗説もあるようだが、さて野球の「神様」はこの時期、どのチームにほほえみかけるのだろうか。

 笑顔の男を思い出した。その男がこの世を去って13日で17年になる。ダイエー時代のセットアッパーとして福岡移転後のホークス初Vに貢献した故藤井将雄投手(享年31)だ。肺ガンに冒され、闘病1年。秋晴れの日に天に昇って行った。佐賀・唐津市で行われた葬儀・告別式にホークスナインはユニホーム姿で参列した。1週間後には「ON日本シリーズ」が控えていた。弔辞を読んだ若田部(現2軍投手コーチ)は、何度もおえつを繰り返し、泣きながら遺影に語りかけた。

 99年の春季キャンプ中のことだ。投手陣の飲み会で、藤井は酔った。先輩後輩なく、無礼講を約束した会だった。「おい、キミヤス!」。5歳上の工藤を呼び捨てにして楽しく騒いだ。工藤も楽しんだ。1年後に光を失うような不幸が待っているとは思ってもみなかったろう。

 あれから17年…。親会社もソフトバンクに変わった。チームはさらに強くなった。藤井から「アニキ」と慕われた工藤がタクトを振ってこの秋、2度目の日本一を目指す。

 ヤフオクドームの選手ロッカー室のど真ん中に藤井の祭壇が設置してある。背番号「15」のユニホーム、愛用のスパイク、ハリー人形が飾られている。今のホークスナインで、藤井と現役を共にした選手はもういない。

 藤井がいたら、何と言うだろう。「中継ぎ使い過ぎですよ」。「もっと投げたいですよ」…。どうだろう。【ソフトバンク担当 佐竹英治】