「虎の恋人! 吉田正尚!」

という記事を書いたことがあった。11年前だ。

2010年の選抜高校野球大会。全国の舞台で頭角を現してきた敦賀気比(福井)の4番は、2年生の吉田正尚。天理(奈良)との初戦でいきなり3安打をマークした。中村奨吾(ロッテ)を擁し優勝候補にも挙がっていた強豪を7-4で下し、2回戦・花咲徳栄(埼玉)戦は3点リードの5回1死二塁で中堅手の頭上を低いライナーで越える適時二塁打を放った。敦賀気比のセンバツ初の8強を決定づけた一打になった。試合後の言葉も「ああやって伸びていく弾道が、自分の本来の形です」と、意識の高さをうかがわせる内容。2年生とはいえ、大会の主役に躍り出る可能性は十分とみて、スカウトの目を取材しにネット裏に行った。

阪神は、こちらが驚くほどの反応だった。「センバツで目立ったのは、敦賀気比の4番。来年は話題になる。バットコントロールがうまいし、力もある。いい打者だよ」と言い切った。「阪神スカウト絶賛! 来年はドラフトの目玉」の見出しで、2年生の活躍を伝える記事を書いた。迫力のある打棒は、鮮烈だった。

だが翌秋、吉田正は進学を選択。青学大に進み、ドラフトの目玉になったのは5年後だった。15年ドラフトで、攻撃力強化を目指した福良オリックスが1巡目で指名。阪神とは縁がなかった。10年の春に記事にしたことは、どれも実現しなかった。

オリックス入団後の吉田正に10年のセンバツの話をしたところ「虎の恋人? あ、覚えてますよ、その記事」と反応。覚えてくれているものなんだなあ…とありがたかった。高校時代に「すごい」と書いた選手が、そのまま成長して全国区になる。そんな選手との再会は、本人の頑張りがなければ実現しないこと。首位打者獲得、プロ6年目の野手ではオリックス・イチローと並ぶ最高額の2億8000万円更改など今の活躍を追うたび、10年春の甲子園でセンターへ抜けていったライナーを思い出す。【遊軍=堀まどか】

敦賀気比時代の吉田正尚(2010年3月28日)
敦賀気比時代の吉田正尚(2010年3月28日)