ロッテの球団職員・谷保恵美さん(56)が、ZOZOマリンの場内アナウンサーとして、16日のソフトバンク戦で通算2000試合担当に到達する。入団32年目。「サブローーーーー!」のアナウンスなどで有名になった“歌姫”が金字塔を打ち立てる。

谷保さんには「七つ道具」がある。4色ボールペン、選手名鑑、双眼鏡、のどあめ、キキョウの根を使ったのどに良いお茶、電波時計、そしてスコアブックだ。自身でスコアを記入し、試合進行を確かめながら、アナウンスに役立てている。

中学時代から、甲子園中継にかじりつきながらスコアを付けていた。年季が違う。場内アナウンスを務め始めてからも、1年に2冊のペースで増え「段ボールの中に積んであります」と歴史的資料としてマリンの放送室に残っている。「これは若いころの試合ですね」と言って見せてくれたスコアには「福沢」の名が。高部らの獲得を担当した福沢洋一スカウト(55)が現役時代に捕手としてマスクをかぶった試合だった。

4月10日、佐々木朗希投手(20)の完全試合ももちろん、スコアをつけた。担当記者の私はてんやわんやで最後の瞬間を殴り書きのように記入していたが、谷保さんは、最終打者の代打・杉本を、代打による選手交代を意味する青インクで、ゲームセットの瞬間まで丁寧に付けている。

完全試合のスコアブックには、1枚の紙が挟まったままだった。試合終了とともに、何が起きたかをアナウンスする必要がある試合だった。9回が始まるまでにメモ書きしたのは、まず確定している「13者連続奪三振」という事実。9回の投球次第で、1試合奪三振はプロ野球新記録になるかもしれないし、ならないかもしれない。完全試合をやるかもしれないし、ノーヒットノーランかもしれないし、いずれもなくなるかもしれない。

放送の原稿を作る余裕はない。キーワードをいくつか紙に書き、試合終了と同時に不要なワードをメモ書きや脳内から冷静に消す。

「佐々木朗希投手、完全試合達成です。13者連続奪三振、日本新記録達成。1試合の奪三振19個、日本タイ記録でございます。佐々木朗希投手、おめでとうございます」

選手たちがファンに一礼した後のこのあいさつは、少し声が震えているように聞こえた。

「たぶん、興奮状態だったんですね。自分もそこに立ち会っているっていう喜びと、それを場内にいる皆さんと共有しているっていうのが一番うれしかったんですよね」

完全試合のアナウンスには後日談がある。数日後、谷保さんのもとに1通のメールが届いた。東京ドームで巨人戦のアナウンスを務める渡辺三保さんからだった。昨年巨人のアナウンス担当を引退した山中美和子さんとともに、谷保さんにとってあこがれの先輩だった。

「(渡辺さんから)完全試合の担当おめでとう、というメールをいただきまして。先輩は28年前に槙原さんが福岡ドームで達成された時にアナウンスをご担当されていたとお聞きしました。場内アナウンスのあこがれの大先輩の次に完全試合を担当することができて、朗希選手に感謝しています」

偉大な大記録は、こんなところでも野球界の思いをつないでいた。【ロッテ担当 金子真仁】

ロッテ対オリックス 9回表オリックス2死、杉本を空振り三振に仕留め完全試合を達成するロッテ佐々木朗(2022年4月10日撮影)
ロッテ対オリックス 9回表オリックス2死、杉本を空振り三振に仕留め完全試合を達成するロッテ佐々木朗(2022年4月10日撮影)