登山のようにカテゴリーがあがっていく野球。中学から高校へ手をかけようとする大事な時期に、手にした球児は案外、多い。「Kボール」と周囲の群像を追う。

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ヒーローインタビューが始まった。照れ笑いの中学生が答える。シダックスの志太勤・取締役最高顧問(85)は「甲子園と同じような体験をさせてあげたくてね」とほほ笑む。

社会人野球に一区切りをつけた志太は今、故郷伊豆に居を構えながら、日本中学生野球連盟の会長職にいる。中学の部活動を束ねる中体連でもなく、リトルシニアなどの中学硬式野球組織でもない、独自の通称“中野連”。「野球をなんとかオリンピック(五輪)の正式種目に復活させたい。競技人口の裾野を支えたい」。思いを込めて、01年に立ち上げた。

野球人口減少は、当時から予兆があった。最大の問題を「ボールにお金がかかること」と考えた。硬球は軟球より値が張り、危険性も高く、雨に弱い。「それなら、中間のボールを作ろうか」と識者と話し合って生まれたのが、ゴムに包まれた硬球。危険性回避のために中央部には空洞も作った。「Kボール」と命名し、未来を託した。

軟球から硬球への懸け橋となったKボールには、もう1つの効果があった。

中体連加盟の3年生選手の多くは7月には“引退”する。高校入学まで半年のブランクが生まれる。この解決に、温暖な伊豆で11月に全国大会を開くことにした。伊豆半島各地で予選ブロックを行い、準々決勝以降はかつてシダックス野球部が汗を流した伊豆志太スタジアムが舞台になる。

岩手県選抜の斎藤響介投手(滝沢市立滝沢中3年)が完封勝利を挙げた。わずか2カ月で心身ともに急成長したという斎藤も、中体連では地区大会で早々に敗れ、夏前には中学の部活を終えていた。選抜チームでの練習の日々がなければ、どうしていたのだろう。「勉強して…いや、ゲームばかりしていたかなと」。

野球をより安全に、より楽しく。何とか高校でも続けてほしい-。大会の全試合は動画サイトで生中継され、PV数は去年の倍をたたき出した。クラウドファウンディングにも90人近い賛同者が集まった。「ネット時代の新しいスポーツイベントに成長させたい。もっとエキサイティングにしていきたい」。来年で第20回。年季が入ってきたが志太は攻め続ける。

Kボール活動から、これまで50人超のプロ野球選手が誕生した。巨人丸、楽天則本昂、DeNA山崎と大物選手も多い。そして、今年も。ロッテドラフト1位の大船渡・佐々木朗希投手はKボールの出身だ。(敬称略=つづく)【金子真仁】