日刊スポーツ評論家の田村藤夫氏(61)が、ニッカンスポーツ・コム内で「みやざきフェニックス・リーグ」をリポートしている。関東第一から1977年(昭52)ドラフト6位で日本ハムに入団。19年に中日を退団するまでの42年間、選手、指導者としてプロ球団に所属して球界を生きてきた。今年はじめて球界から離れ、今までとは違う視点からかつての職場を見る。主に2軍を中心に取材を続ける田村氏の目に、育成の場はどう映るのか。

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みやざきフェニックス・リーグをスタンドから見ている。昨年は10月には中日の退団が決まっていたため、2年ぶりになる。ベンチからではなく、スタンドから見る試合は新鮮だ。

選手がどういう狙いを持ってプレーをしているのか、していないのか。思いをはせながら、久しぶりにスコアブックをつけ、メモを添えてイニングを追う。

捕手としてプロ野球界を生きてきた。選手として21年、その後は多くの球団でコーチを務めてきた。専門は捕手であり、バッテリーコーチとして捕手育成に取り組んできた。初冬の宮崎で、やはり私の目は捕手に注がれがちだ。巨人のルーキー山瀬慎之助(星稜)、阪神藤田健斗(中京学院大中京)、私と同じ高卒でプロに入った捕手を見ながら、特長を探し、直すべき箇所の改善策を考える。

そして、気づいたことがある。原点ともいえるファームの現場を1歩下がったところから見て、大切なことが頭に浮かんだ。捕手として求められる、とても大切な資質だ。

こんな時、みなさんならばどうするだろう。会社員の方でも、自営業の方でも想像していただきたい。試合中、投手が捕手のサイン通りに投げられずに打たれる。ベンチに戻った捕手は監督、コーチから叱責(しっせき)され、原因を追及される。サインは何だったのか? 投手はその通りに投げたのか? と。

答え方は2通りある。配球に問題があったのか投手が失投したのか。たとえサイン通りに投げて打たれたとしても「打者がうまかったです」とは言えない。ベンチで詰問された捕手は、責任を背負うか、投手の失投だったと言うか、どちらかしかない。

20代前半の頃、ベンチで「何だあのリードは!」「なんであんな球を投げさせたんだ!」と頭ごなしに言われた私は「このリードでいいと思いました。すいません」と答えていた。

80年代のプロ球界では、こうした時は、捕手が責任をかぶるという習わしがあった。「打たれたら捕手の責任、抑えたらピッチャーのおかげ」。私もそれにならっただけのことだが、心の中で「なぜ俺が…」と思い、耐えていた。

当然、そんな捕手の悲哀を想像する投手などいない。そもそも投手とはそういうタイプだ。経験上、年上で捕手田村の苦しい胸の内を気に掛けてくれた方は、柴田保光さんしか思い出せない。

やがて日本ハムのレギュラーになり、ロッテ、ダイエーと移籍して現役を引退する。その後は1軍、2軍のバッテリーコーチを長く務める中で、このベンチでの立ち居振る舞いこそが、実は捕手にとって非常に大切なことだと身をもって知るようになる。

フェニックス・リーグで配球に悩み、ベンチで首脳陣とさまざまな会話をしているであろう、若い捕手たちこそ知っておくべき教訓がここにある。(つづく)