田村藤夫氏(63)が3年連続で、フェニックスリーグ(宮崎)を現地からリポートする。日常会話の1コマから、コミュニケーション力が垣間見えた。

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フェニックスリーグが雨天中止の際、中日の室内練習場を取材する機会に恵まれた。ちょうど石橋康太捕手(21)が、片岡2軍監督から打撃指導を受けていた。プロ4年目の今季、31試合出場、打率1割7分9厘も、これまでで最も多く出場した。

中日石橋康太の打撃フォーム(22年9月28日撮影)
中日石橋康太の打撃フォーム(22年9月28日撮影)

正捕手木下がいる。石橋は出場試合を増やしてはいるが、2番手、3番手の立場に変わりはない。打力がある木下を上回るには、出場した試合で勝ち、かつ打たないと、超えるのはかなり難しいだろう。

各球団の2番手、3番手捕手にとって、このフェニックスリーグは、1軍で経験したことをほぼ100%確実にできるかが試されている。極端な言い方になるが、仮にファームで10試合フル出場しても、1軍の試合と比較すれば僅差の1イニングにも満たない。

それだけレベルが違う。1軍は結果だけが求められ、重圧はファームの比ではない。そこをよく認識して、例えば石橋ならキャッチング、スローイング、ブロッキングをほぼ完璧にやり続けることだ。その先にバッティングと、投手とのコミュニケーションを含めたリードとなる。

石橋は真面目で素直だが、それではこの世界では時として足りない局面もある。例えば、ダイエー(現ソフトバンク)で城島と一緒にプレーしたが、彼のメンタルの強さは抜きんでていた。

ブルペンでのキャッチングがなってないと、当時のエース工藤や武田がピッチングを切り上げて不機嫌にブルペンを出て行ってしまう。若い捕手からすれば、オロオロする場面でも、城島は食い下がった。練習が終わると、工藤や武田の元に自分から出向き、厳しい言葉を浴びながらも、必死に話しかけ、諦めずに答えを見つけようとしていた。

どこまで投手と向き合う覚悟があるか。石橋も1軍で出場すれば大野や柳などの年長者に対し、自分の考えを交えながらコミュニケーションを取らないといけない。

室内練習場で、片岡監督はそばでスイングしていた高卒ルーキー味谷のスイングを見ながら「こっちの方がいいぞ」と、様子をうかがうように石橋に話を向けると、石橋は「はい」と、ばか正直な返事。片岡監督が「そこは『はい』じゃないだろう」と、笑いながらダメ出しをしていた。

石橋は高卒でまだ若いが、もう4年目だ。言葉の使い方ひとつ取っても、投手の心理に肉薄していく工夫が必要になる。石橋はここから、捕手としてのまさに応用編に入る。(日刊スポーツ評論家)

プロ野球評論家の田村藤夫氏(19年12月26日撮影)
プロ野球評論家の田村藤夫氏(19年12月26日撮影)