MLBでは、今季から複数のルール改正が実施された。とりわけ試合時間短縮の目的で導入された「ピッチクロック」は、投手だけでなく、野手にも影響を与えることもあり、多様な論議が交わされてきた。開幕から約1カ月で、平均試合時間は3時間5分から2時間37分と28分も短縮された。現場の選手たちはどう感じ、データ的にはどう変化したのか。サンプル数は少ないとはいえ、現場の反応、数値などを検証する。
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日本中が侍ジャパンの快進撃に沸いた3月、メジャー各球団のキャンプ地では、新ルールへの対策が着々と進められていた。ブルペンだけでなく、実戦形式の打撃練習の際にも、デジタル時計が設置され、投打ともに速い投球間隔に慣れることを最優先課題として「意識付け」を推進した。
過去数年、独立リーグやマイナーでテストを繰り返してきたとはいえ、導入する直前の採決では、選手会側は反対票を投じた。それでも、MLB側の意向が強く、結果的に通過。野球が持つ「間」や「駆け引き」を重んじる声を封じ込める形で、「ピッチクロック時代」はスタートした。
開幕直後は、せかされるようなリズムに不満や戸惑いも目立っていた。4月5日、マリナーズ戦に「二刀流」で出場したエンゼルス大谷は、投手として「ボール」、打者として「ストライク」を取られ、史上初の「投打」で違反を取られる第1号となった。試合後には、審判控室へ出向き、規定を確認した。「始まって間もないですし、お互いに確認していけたら」と説明したが、セットポジションの角度、「始動」の判断など、明文化できない側面があるのも否定できない。大谷の場合、WBCに出場し、オープン戦での登板が限られたこともあり、ある程度の対応期間が必要だったこともうかがわせた。
その一方で、試合を重ねることで時短の傾向が顕著となり、現場の空気も徐々に変化してきた。投球間隔が制限されたことに伴い、バッテリー間で「ピッチコム」と呼ばれるサイン伝達機器の使用が認められた。これまでの捕手からだけでなく、投手からもサインを送るシステムは「ピッチクロック」の副産物だった。当初、反対派だったサイ・ヤング賞3度のメッツ・シャーザーも「ピッチコム」の効果を口にする。「投手からのサインは非常に有効。打者が打席に入っていない段階でも、投げる準備が可能。時間がきたらすぐに投げることも、じらして制限いっぱい時間を使うこともできる。打者に対して完全に主導権を握ることができる」。開幕から無傷の5連勝を飾ったブルージェイズ菊池の覚醒を、シュナイダー監督は「ピッチクロック」の影響とも分析する。「テンポがすばらしくなり、投球動作もスムーズになった」。
無論、時短が最終目的ではない。多くのファンは、淡泊な試合もダラダラとした試合も望んではいない。ただ、テンポのいい、引き締まった試合が増えるのであれば、「ピッチクロック」は、今後も受け入れられるのではないだろうか。【MLB取材班】
試合時間の短縮が目的だったピッチクロック。開幕から1カ月ほどが経過した時点で、昨年の平均試合時間と比べ28分短くなった。スタットキャストが計測する投球間隔(投球がリリースされた間隔=ピッチクロックは投手がボールを受け取った瞬間から計測を開始し、投球動作開始で止めるため約6秒のずれが生じる)は、走者なしで今季11・1~19秒に収まっており、12・6~25・8秒だった昨季よりも短い。エンゼルス大谷はピッチコムを使用して自らサインを出すなど、走者なしでは21・7秒から15・3秒に縮まった。走者がいる場面でも26・6秒が17・9秒になった。
開始1カ月でピッチクロック違反は、AP通信によると1試合平均0・74回あった。313件のうち、投手が204件、打者が91件、捕手が4件。オープン戦では9回2死満塁で打者が構えてないとして、三振を取られてゲームセットとなる珍事もあった。公式戦ではカブスにノンテンダーで移籍したベリンジャーが古巣ドジャースタジアムでスタンディングオベーションを受けている間に、1ストライクを取られた。逆に古巣パイレーツに復帰したマカチェンは、本拠地での初戦で盛大な拍手を受けたが、これは見逃された。また、プロ13年目のパイレーツ・マジが初めてメジャーの打席に立った際の初球は、球審と捕手が本塁から離れるという配慮を見せた。しかし、2球目は構えが遅いとストライクを宣告した。
意外な影響もあった。試合時間が短くなった影響で、球場内のビール販売量が減少。このため米国有数のビール産地ミルウォーキーに本拠地を置くブルワーズなどが、7回までとされていた販売終了を8回に変更した。これにはフィリーズ・ストラームが「7回で終了していたのは、ファンの酔いを覚まし、安全運転で帰ってもらうためだったはず。ファンや家族を危険にさらしている」と批判する一幕もあった。ブルワーズはその後、販売期限を7回に再度変更した。
WBC決勝の9回2死から繰り広げられた大谷とトラウトの勝負で、最後の1球は20秒以上かかっていた。こうした息詰まる攻防は、形を変えていくことになる。【斎藤直樹】
◆ピッチクロック 大リーグで今季から導入された投球時間を制限するルール。投手がボールを受け取ってから走者なしの場面で15秒以内、走者がいる場面で20秒以内に投球しなくてはいけない。違反の場合は1ボールが宣告される。打者は制限時間8秒前までに打席で構える。違反すると1ストライクが追加。また、けん制を制限なく行えるのは2度まで。3度目でアウトにできなければ、走者には進塁が与えられる。
■今季から導入の社会人野球は約15分短縮
○…ピッチクロックは日本の社会人野球でも、今季から導入されている。日本野球連盟(JABA)近畿地区連盟の前田正治専務理事は、1日まで開催された社会人わかさ生活京都大会で「投手の間合いは速くなった。昨年大会より平均で約15分短縮できた」と、効果を口にした。社会人野球では、走者なしで12秒以内、走者ありでは20秒以内の制限となり、1度目の違反は警告、2度目から「ボール」に。けん制、打者が打席を外す動作も制限がある。同専務理事は「(新規定を)試合の質の向上につなげ、社会人野球から広がっていけば」と話した。








