還暦を超えた年齢で130キロに迫る球を投げることは、本当に可能だろうか。プロアマ問わず、数多くの投手を球速アップに導いている野球専門ジム「DIMENSIОNING」の北川雄介代表に聞いた。横浜市に住む小澤秀寿さん(62=現在の最球速は117・7キロ)の挑戦、連載最終回です。
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8月下旬。再び都内にある「DIMENSIОNING」東京本店を訪れた。大リーグのシカゴ・カブスとマイナー契約を結んだ三河吉平投手(24)が渡米前最後の練習を行っていた。脱サラした三河投手はここで働きながら、約半年で球速を10キロアップさせ、大きな夢をつかんでいる。
もちろん、小澤さんが三河投手のようになれるわけではない。それでも北川代表は小澤さんの可能性について言及した。
「130キロを出せるかどうかはわかりませんが、今より球速がもっと上がる可能性があるのは間違いありません。肩や上半身が強いというのは強みです」
連載の1回目で書いたように、VALD社の身体能力可視化システムにおける数値をみると、小澤さんはメジャー投手並みの上半身を持っている。一方、下半身が弱く、上下のバランスの悪さが課題だ。
北川代表の共著「球速が10キロ上がるピッチングの科学」(KADOKAWA)によれば「球速=メカニクス×質量」。ここでいう質量は、除脂肪体重を身長で割った指標(FFMI=筋肉量の多さを身長比で評価するもの)で示すことができる。小澤さんはここでも62歳とは思えない数字(20・3=20、30代のアスリート並み)を残した。つまり、メカニクスさえ整えば、現在の最速117・7キロ(弾道測定器ラプソード3.0で計測)よりもさらに球速は出るはずだ。
北川代表が言う。
「もちろん加齢による限界はあるでしょう。ただ、試合で何十球と投げるわけではないので、この1球というなら130キロ近い球が投げられるかもしれません。投球フォームを現代版にアップデートして、トレーニングによって体の機能を改善すれば、可能性は大いにあります」
7月下旬に行われたセッション(指導)で、マウンドから投球を行った小澤さんは、担当の佐藤颯トレーナー(30)に「(軸足の)右足1本でしっかり立てないのがネック」と指摘された。そして、関節をしっかりはめ、安定させるための練習方法を教えてもらった。しばらくして、小澤さんから私に自主練習での動画が送られてきた。確かに右足のぐらつきが減り、投球フォームが以前より安定していた。
それでも小澤さんは「球速は110キロ台を更新できていません。せめて早く120キロ台に乗せたい。少し焦りを感じています」という。一方、北川代表は、過去に球速の大幅アップに成功した選手たちの共通点をこう指摘する。
「結果が出始めた時に『これが本来の自分』『もっともっと良くなる』と思えることです。自分を信じられない人、いつまた元に戻ってしまうのではないかと心配する人は伸びていきません」
小澤さんは現在も、自宅近くの公園を中心に一人で練習を積んでいる。
「練習に専念できる場所があったからこそ、ここまで続けてこられた一番の要因なのかもしれません。練習パートナーはいなくても、フィールドさえあればできるんだという事をあらためて気づかせてくれた期間にもなりました。不便さも、かえって自分で工夫して乗り越える面白さに変えられていた気がします。これまでに得た知識を愚直に実行していこうと思います」
たとえ130キロに届かなくても、小澤さんの挑戦は色あせない。自分を超えようとする意志とその道のりこそが尊い。がんばれ、小澤さん。【沢田啓太郎】(この項終わり)
◆小澤秀寿(おざわ・ひでとし)1964年(昭39)8月5日生まれ、長野県松本市出身。横浜市内の中、高校を卒業後、銀行系システム関係の会社に就職。現在はJCOM株式会社に勤務。40代からジムに通い、ウエートトレーニングに精を出す。野球経験は中学1年生まで。177センチ、86キロ。




