前回記念大会だった08年の選抜は、沖縄尚学が県勢2度目の優勝を飾った。その2年後には、興南が春夏連覇。しかし、ここをピークに沖縄勢は甲子園で勝てなくなった。11年以降、春夏で3度の8強入りが最高。今大会は3年連続での出場校なし。沖縄に何が起きているのか? 長年、強化に携わってきた沖縄県高野連の元理事長・安里嗣則氏(78)は言う。「中学生の県外流出が増え、九州大会を勝てなくなった。会議でもよく話に挙がる。悩みの種になっている」。過去3年で合計約200人、この春には約70人の中学生が県外校に入学した模様だ。

 かつては高校野球の「後進県」だった。72年の本土復帰以前には、併殺を完成させただけで、拍手が起こったという。そこからオール沖縄で強化に取り組んできた。体力向上を目的に実施した「野球部対抗競技会」は今年1月で第46回を数えた。全国で初めて1年生大会を開催。沖縄水産・栽弘義監督(故人)をはじめとした指導者の努力で、全国制覇に至った。潮目が変わったのが、興南の春夏連覇だ。県の中学野球関係者は「沖縄の子だけであれだけのチームが作れると県外高校の見る目が変わった。もともと身体能力は高い」と言う。気質の変化もあった。昔と比べ、生徒も島を離れることに抵抗がない。別の関係者は「将来を考えれば、県外の強豪校でプレーしたいと思う子供が増えた。大学進学までのサポートも整っている」と話す。

 沖縄県にとっては、頭の痛い「流出」だが、球児にとっては進学の選択肢が広がる。巨人のルーキー大城は東海大相模から大学、社会人をへて、プロに進んだ。選抜に初出場した松山聖陵の荷川取(にかどり)秀明監督は沖縄尚学の99年春優勝メンバーだ。今回のベンチ入りで、9人が沖縄出身。高橋慎吾部長は荷川取監督について「沖縄尚学の教えを継承しようという思いがある。技術だけでなく、ゴミを拾うとか、人間性を大事にしている。監督自らが率先して、礎になっている」という。沖縄野球の魅力がその土地と融合し、新たなうねりになる。安里氏は力を込めた。「どうやって、また引き上げていくか。乗り越えてやっていきますよ」。県内校も指導のさらなる充実に動きだす。指笛の応援でスタンドが沸く春を楽しみに待ちたい。【田口真一郎】