岡田彰布という人、本当に負けず嫌いである。
野球に限らず、勝負と名の付くもの、絶対に負けたくない。ゴルフ、マージャン、将棋…、ついにそれはジャンケンにまで行き着く。
負けないために研究する。データを分析する。心理を考える。そこでジャンケンにも絶対の自信を持つことができた。「人間って、必ず気持ちが動きに出るわけよ。それはジャンケンも同じよ」。岡田の分析によると、最初はグーからのジャンケンポン、緊張している人間が出すのはグー。「気持ちが高まって、指を開くことができず、手を握ってしまうからグーを出す」そうな。だから、それを見越してパーを出せば、かなりの確率で勝てる、と豪語していた。
開幕と同時にジャンケンにまつわる話が出ていた。チームの士気を上げたり、喜びを表すグータッチはポピュラーで、特に巨人の原辰徳のグータッチは有名。ところが岡田はグーはアカン。グーよりパーの方が強いから、これから阪神はパータッチでいくと選手に伝え、開幕の緊張感がほぐれたとか。いかにも岡田らしい発想と思った。
こういうところにも表れているが、岡田は若い選手に寄り添おうとしている。それを感じる場面が、ここ最近、数多く見られた。開幕前のオープン戦の最後。オリックス戦の試合前、岡田の元に走ってあいさつにきたのがT-岡田だった。かつて本塁打王に導いてくれた恩師に頭を下げたT-岡田に向け、「おい、ここからやぞ。ここからもがけ。必死にもがけよ」と声をかけた。控えに回るTに対する思いやり。岡田はこれまで、こんなことを伝えるタイプではなかった。
他球団の選手にも距離を縮めた。当然、阪神の選手との距離の詰め方も変わってきた。T-岡田が去ったあと、目の前を通ったのが坂本で、ここでもひと言。「負けたな。えらい早くに負けたな」。対して坂本。頭を下げ「ハイ、負けました」。そう、母校の履正社がセンバツで早々と敗戦。それでこの会話が成り立ったわけだが、こういうことも岡田から先に声をかけるなんて、本当に珍しいことだった。
そして迎えた3・31開幕。試合前、若いOBが入れ替わりにあいさつにくる。岡田は実に楽しそうだった。ニコニコしていた。赤星とは長い時間、話が弾んだようだ。すると、そこに背番号62がフリー打撃のために出てきた。すると岡田はその62番と笑いながら話を始めた。
62番は植田。申し訳ないけど、フリー打撃は最後の組で、代走要員が主なポジション。これまでなら岡田と62番が笑みを浮かべながら会話するなんてこと、考えられなかった。話の中身は聞いてはいないが、間違いなく岡田は選手との距離を詰めにかかっている。そう感じたシーンが何度も目撃されていた。
始まった2023年シーズン。正直、岡田の勝負勘は鈍っているかも…と心配していたが杞憂(きゆう)だった。開幕カードのDeNAを圧倒し、まずは連勝。初戦は最後、冷や冷やしたが逃げ切り、2戦目は劇的なサヨナラ勝ち。この試合、先に書いた62番にも出番があった。大事なところでの代走だったが、その初球、いきなり盗塁を決めた。代走植田をベンチから見ていた岡田は笑っていた。控え選手に歩み寄り、距離を縮めて、そのお返しが盗塁成功…。ほのぼのとして、そしてやる気に満ちた光景に映った。
4月2日、3連戦の3戦目。ここも若い投手の躍動に、岡田は酔っていた。前日の延長12回で、まず長いイニングを求められた先発才木が、岡田の要求に簡単に応えた。打つ方ではルーキー森下が、期待以上の働きを見せている。
年の差、実に40歳以上…。岡田には培った野球学があるし、それはさび付いていなかった。開幕3連勝…。怖いくらいのスタート。こうなれば岡田はますますアクセルを噴かす。(敬称略)【内匠宏幸】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「岡田の野球よ」)




