<イースタン・リーグ:DeNA6-4ロッテ>◇21日◇バッティングパレス相石スタジアムひらつか

日本ハム、ロッテ、ダイエーで21年間の選手生活を送り、その後はソフトバンク、阪神、中日で2軍バッテリーコーチなどを21年間(うち1年間は編成担当)務めた日刊スポーツ評論家の田村藤夫氏(60)が21日のDeNA-ロッテ戦(バッティングパレス相石スタジアムひらつか)を取材した。DeNAの高卒3年目左腕・桜井周斗投手(21=日大三)の速球の可能性の高さと、一方でそれを生かせない変化球の精度を指摘した。

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なかなかいいボールを投げているな、と率直に思った。桜井はプロ2年目の昨年、1軍で14試合に登板していたが、球場で投げる姿を見たのは初めてだった。平塚球場はバックネット裏のスタンドの勾配がきつい。上から見たため、球の高低ははっきり分からなかったが、それでも桜井のボールには可能性を感じた。

最速149キロ。常時146~148キロを出しており、左腕でこのスピードはなかなかいない。その速さに加え、インコースへ食い込むボールは、思わずスコアブックをつける手が止まるほどだった。

詳しく説明すると、右打者のインコースへは、いわゆるクロスファイアのように食い込んでいく。左腕が右打者の内角をしっかり攻めることができると、リードする捕手からすれば、攻め手が増える。そして、桜井の最大の特長は、左打者に対してもインコースにしっかり投げられる点にある。これは特筆すべきポイント。初めて見たため、日ごろの桜井のピッチングと比較できないが、これを磨けば大切な武器になる。

中日でコーチを務めていた一昨年までの中で言えば、中日大野雄ですら、左打者のインコースは苦労していた。それほど左腕にとって、左打者の内角への制球は重要なボールになる。ソフトバンク工藤監督の西武時代のピッチングは、その最たるものだ。この日の桜井は左打者のインコースを攻める時に、意図的にボールにしたり、ストライクを取っているように映った。

ただ、ストレートは見るべきものがあるが、変化球をじっくり吟味していくと物足りなさがある。チェンジアップ、カットボール、スライダーを投げていたが、ストライクが取れない。つまり、この日の桜井はカウント球も、勝負球もストレートという投球だった。これでは2軍では通用しても1軍では通用しない。

変化球に取り組む意識は当然あるとは思うが、2軍で4回を投げて3安打無失点、1三振、3四球、69球のピッチングで小さくまとまってもらいたくない。蛇足になるが、3回には2死から9番の捕手江村に変化球を続けてカウントを悪くし、最後はストレートが低めに外れて四球という場面があった。その後、抑えはしたものの、ヒットと四球で2死満塁のピンチを迎えている。これはバッテリーの問題と言える。それこそ、9番打者相手には、ストライクが取れない変化球ではなく、ストレートで押せばいいわけで、こうしたところにも全体としてピッチングに安定感が足りない。

話を戻すと、持ち球の変化球3種類の中でどれでもいいから、自信を持ってストライクを取れるボールをつくることだ。この日で言うなら、ややスライダーの精度が良かったが、それはチェンジアップ、カットボールがほぼボール球になっていたという低いレベルでの話だ。

本来なら、チェンジアップがあれば、右打者に対しては有効な球になるだろう。例えば近鉄で活躍した阿波野、中日の山本昌は、言い方はそれぞれ異なるが、チェンジアップ、スクリューで右打者を攻略してきた。つまり、右打者の外へ抜けながら落ちていく軌道を描くボールが、非常に有効であるということだ。

そのボールがあるだけで、自分の持ち味であるインコースを攻めるストレートの威力がますます強まる。例えば130キロ台のチェンジアップと、150キロ近いストレートでストライクが取れるようになれば、打者にとっては非常にやっかいな緩急という武器になる。

桜井はそうした目的意識を持ち、自分の強みをさらに生かせる変化球のマスターに取り組んでほしい。プロ3年目ではあるが、危機感を持ってほしい。

最後に、森敬斗内野手が3回に見せた守備に思わず「オッ」と声が漏れた。加藤のセカンドベース横の打球に猛然と飛び込んだ迫力あるプレーだった。スタンドの上から見ていても、あと10センチくらいで届いたのではないか。打った瞬間にセンター前と感じた打球に、最初から捕ってやろうという意欲が伝わってきた。わずかに届かなかったが、非常に良いプレーだった。(日刊スポーツ評論家)