阪神対中日 8回表中日無死、糸原健斗(左)は大島洋平の打球を好捕し植田海とタッチする(撮影・上山淳一)
阪神対中日 8回表中日無死、糸原健斗(左)は大島洋平の打球を好捕し植田海とタッチする(撮影・上山淳一)

野球好きなら分かると思うが中日に一矢報いたこの試合、最後の場面はなかなか危なかった。3点リードの2死一、二塁。ここで前日、満塁弾を放っている京田陽太の打球は三ゴロとなった。

しかし試合開始から降り続く雨のためグラウンドはぬかるんでいる。何か起こるか。そう心配したが大山悠輔はしっかり捕球し、一塁へ投げた。しかしこの送球が少しそれてしまう。それでも一塁・木浪聖也が京田にタッチし、試合終了となった。

何が危ないかと言えば、あの場面、大山はそのまま三塁ベースを踏めば終わりだった。それでなくても雨。投げればそれだけリスクは増える。もっとそれていたらどうなっていたか分からない。むろんタイミング次第なのだが、このプレーでは三塁ベースを踏めたはず。内野守備走塁コーチの藤本敦士に聞いてみる。

「そうですね。まあ、まだそれだけの冷静さがないということでしょう」。藤本もそのプレーの危うさを認めた。もちろん大山だってプロ。当然、分かっているはず。それでもやれないのは開幕から4番打者の重圧と戦うキツさが守備にも出ていると見るのは間違いだろうか。

逆の意味で試合の流れを渡さないプレーは主将・糸原健斗に出た。8回、投手がジョンソンに代わった場面。この回、先頭の大島洋平が放った強い打球は二遊間に転がる。これを二塁・糸原が回り込んでキャッチ。右足でしっかり踏ん張って一塁へ送球。きわどいタイミングで刺した。

このとき藤本は両手をたたいて喜んでいた。そこには単なる好プレーというだけではない意味があったからだ。

「大事な場面だったんで。糸原はヒットが打ててなかったし。打てないときは守りで貢献するのが大事。あれは大きかったと思いますよ」

センターラインの強化が課題の阪神、こんな打球を処理できないケースも少なくない。あの打球が内野安打、あるいは失策になっていたら。中日の反撃ムードを未然に防いだという意味で藤本は「大事な場面だった」と言った。

そんな糸原に話を聞いたが無安打にぶぜんとしている。「何もないスよ、何もないス」。その言葉を繰り返した。それでも「打てないときは守らないと」。最後には藤本と同じ言葉を口にした。

球史に残る強打者だった前監督・金本知憲には不思議なクセがあった。みんなが打ちまくっている試合では打たない、というものだ。もちろん糸原はまだそんな打者ではない。それでも誰も打てないときに打つ打者になってほしい。それが本当の主将だ。(敬称略)

阪神対中日 中日に勝利し笑顔でタッチを交わす阪神ナイン(撮影・上山淳一)
阪神対中日 中日に勝利し笑顔でタッチを交わす阪神ナイン(撮影・上山淳一)