福留孝介の退団が決定的になった翌日、能見篤史が同様の状態になっていることが明らかになった。例年、秋風が吹く季節になると巻き起こる進退の話だが今季はまだ多くの試合を残しているので複雑だ。

「同様の状態」というのは福留と同じく能見も阪神は去るけれど現役続行の意向は持つという点だ。コロナによる特殊なシーズンだったことも背景にあるのでは、と推測する。「こんなシーズンで終わりなんて悔いが残る-」と考えても不思議はない。いずれにせよ、なじみの選手たちがチームを去るのは寂しい気持ちになる。

これで引退を決めた藤川球児を加え、ベテラン3選手が来季、タテジマのユニホームで戦うことはなくなった。そこで思い出すのは闘将・星野仙一が初めて阪神の指揮を執った02年オフのことだ。

ベテランの虎党ならご存じだろうが、そのオフ、実に24人もの選手が阪神を去っている。俗に言う「血の入れ替え」という出来事だ。引退した選手だけでも葛西稔、星野伸之、伊藤敦規、遠山奬志と名前が上がる。坪井智哉、山田勝彦らはトレードで去った。

「そんなにたくさんクビにしたんか? と誤解している人もいるようだけどな。引退とかトレードとか全部合わせてのことやったから。でも阪神の戦力にならない人には去ってもらったということだな-」。のちにその話をしたとき、星野は苦笑しながらも眼光鋭く言ったものだ。

長年、チームに貢献し、実績も人気もある選手を「戦力外」にすることは誰にとっても気分のいいものではないだろう。選手の方からすれば「なんで?」と思う場合も少なくない。それでもやらなければならないときは来る。

それはなぜか。もちろん財政上の問題もある。特に今季はコロナ禍で、どの球団も大きな赤字を出すことは間違いない。だから成績に比べて高年俸の選手に去ってもらう-という考えもプロなので当然あるはず。

それでも最大の理由は勝利を追求するためだろう。彼らをそのまま存続させても白星につながらないと考えるから戦力外にするのだ。逆に言えば、勝てなければ「何をやってる」と言う見方にもなる。星野阪神も03年に負けていれば「血の入れ替え」という伝説にはなっていないはず。去っていく者のためにも勝つことは重要なのだ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神福留孝介(2020年6月12日)
阪神福留孝介(2020年6月12日)