敦賀気比(福井)のミラクル男が、春夏通じて北陸勢初優勝に導いた。準決勝で史上初の2打席連続満塁本塁打を放った背番号「17」松本哲幣(てっぺい)外野手(3年)が、同点の8回1死二塁から左翼席に運び、3-1で東海大四(北海道)を下した。大会3本塁打はPL学園(大阪)清原和博(元オリックス)、星稜(石川)松井秀喜(元ヤンキース)らに並ぶ大会最多タイ。準決勝以降3発は大会初。球界レジェンド級の活躍で“北陸の夢”を実現させた。

 背番「17」のミラクルボーイが“怪物”に進化した。準決勝で史上初の2打席連続満塁弾を放った松本が、緊迫した決勝の行方を決めた。同点で迎えた8回1死二塁。スライダーを振り抜くと、左翼席へ一直線。北陸の夢を乗せた打球がポール際へ吸い込まれた。

 カウント1-0からのスライダーを読んでいた。「カウントを取りにくると思った。2本の満塁弾より今日の1発の方が完璧だった。試合を決める本塁打だったので、きのうよりうれしい」。甲子園で進化したことを証明する1発だった。

 実はチームで一番「出遅れた」打者だった。平沼の2番手投手として期待されて入部したが、制球が悪く2年になる前に打者転向を告げられた。打者に転向しても、2年秋には右肩甲骨の肉離れで離脱。本格的に打者に専念してからまだ1年も満たない。林孝臣コーチ(32)は「中途半端なスイングは見たことがなく、とにかく振り切るのが特徴。ここで打たないとメンバーから外されるというところで意外と結果を残す勝負強さはあった」。まだまだ発展途上のスラッガーは、甲子園であっという間に素質を開花させた。

 松本 二塁走者の平沼の顔を見て絶対に打とうと思った。昨日の2本はまぐれじゃないところを見せたかった。

 運だけじゃない。つらい思いを乗り越えた自信があった。右肩甲骨肉離れで戦列を離れたときは左手1本で1日200スイングを約1カ月続けた。大会前の練習試合でも、満塁の好機で投ゴロ併殺の屈辱を味わいながら、その後5点差を逆転する口火となる2ランも放っていた。センバツでも、初戦は6番スタメン出場で3安打も、2回戦の仙台育英戦は3打数無安打。準々決勝はスタメン落ちした。「落ち込んだけど準決勝を前に夜1時間の素振りをした」。無心でバットを振り続けた男に、甲子園の女神はほほ笑んだ。

 閉会式でメダルを首からさげ、ふと思った。「これ以上、これからいいことはないんちゃうん?」。北陸のヒーローは「夏は1ケタの背番号が欲しい」と笑う。春夏連覇を目指す夏、もっと立派な背中になって、甲子園へ帰ってくる。【浦田由紀夫】