故障禍から解放された高校最後の夏、エースは思いきり左腕を振った。智弁和歌山・斎藤祐太(3年)が8回を2安打無失点。投手交代、守備交代の2人を含め有田中央の全打者11人から三振を奪い、13奪三振で発進した。

 「味方が点を取ってくれたので楽になった。ぼくは三振を取るタイプの投手ではないので」と苦笑いも、確かな手応えをつかめた初戦だ。大会開幕直前の3日、紀三井寺での練習試合。昨夏全国制覇のメンバーが残る大阪桐蔭打線を5回1安打無得点に封じた。「いい感じで来ている」と上り調子を感じていた。その実感が、結果になった。

 1年夏は左肩痛に苦しみ、昨年は6月上旬の練習試合で左手に打球を受けて薬指を骨折。和歌山大会には間に合わせたが、甲子園には届かなかった。決勝で延長戦の末、市和歌山にサヨナラ負け。万全の体調で臨めていたら、もっとチームの力になれたのに…。苦い記憶を背負っていた。肩の痛みも利き手の骨折もなかった今夏の大会前。「リズムよく腕を振って投げるようにした。外のまっすぐが決まるようになり、スライダーも切れるようになりました」という。

 大差がつき、高嶋仁監督(69)から「交代するか?」と聞かれたが、首を振った。「あそこまで投げて(他の投手に)いいところを持っていかれるのは悔しいです」と笑った。志願の続投の裏に負けん気もあった。【堀まどか】