【2015白球メモリー:秋田南・中島貴俊外野手(3年)】

 2度、打席に立てた。守備にもついた。左翼から双子の兄、エース和俊の力投も見守れた。それで十分だった。「いいピッチングだった。カズが全力で投げている姿を見て、一緒に野球を続けてきてよかったと思えた」。今夏、打線の軸になるはずだった背番号7は、何重にも巻いた左腕のテーピングをなでた。

 開幕1週間前の練習で左手首にひびが入った。出場は無理かと思われたが、最後の最後に間に合わせた。6回裏に今大会初めて代打で出場し三振。9回には先頭で遊ゴロに倒れた。「打席に立ったら痛みは感じなかった。ただピッチャーを助けられなかったのが悔しい」。子供のころから思い描いた「一緒に甲子園に行く」夢はかなわなかった。

 小3で水泳を始め、小5から野球を始めた。いつでも和俊と一緒だった。だが卒業後は別々の道を歩く。「兄は野球を続けると思うけど、僕はこれで終わり。ここまでみんなに連れてきてもらった。それで十分」。涙のない、さわやかな表情だった。【石井康夫】