「盛付(もりふ)劇場」の春が終わった。盛岡大付(岩手)は優勝候補筆頭の履正社(大阪)に1-8と完敗し、役者の違いを見せつけられた。5回に失策が絡んで5失点。自慢の強打は主砲の1番植田拓外野手(3年)が7回にソロ本塁打を放ったが、わずか2安打に終わった。準優勝した09年の花巻東以来、岩手県勢8年ぶりの4強入りに届かなかった。東北勢3校は、すべて姿を消した。

 昨夏から甲子園を沸かせたハラハラ、ドキドキの演出がなかった。春の「盛付劇場」は、準々決勝であっけなく閉幕した。8強からもう1つ上の大舞台に立つためには、ワンプレーの重みを思い知らされた。関口清治監督(39)が心に刻み込むように言った。「やはりこれが甲子園の恐ろしさ。また勉強させてもらいました」。

 5回2死一塁。履正社のプロ注目打者、3番安田尚憲(3年)の打球を二塁手の小林由伸(3年)が後逸した。そこから先発左腕の三浦瑞樹(3年)が崩れた。四球で1死満塁とした後に暴投で先制点を献上。さらに四球でピンチを広げ、二塁打を連続で浴びて5失点した。「(失策で)一瞬だけ心が動いた。そういう感情を持たなければ、5点はなかったと思う」。動揺した心の弱さを反省した。

 その5点が重くのしかかった。関口監督は「エラーの後にタイムリー。チームに元気がなくなってしまった」と残念がった。自慢の強打は、履正社のエース右腕竹田祐(3年)の前に沈黙した。無安打の4番比嘉賢伸主将(3年)は「初球は変化球で来ると分かっていたけど捉えられず、カウントを悪くしての勝負になった」と脱帽。6回まで1人も走者を出せなかった。

 もっとも、岩手大会を制して乗り込んだ昨夏とは状況が違う。そこに成長の余地があると、関口監督は考える。「夏は公式戦を経験しながら。春は(甲子園が)やっと初の公式戦ですから」。1つ上の代なら5点差を猛追、もしくは逆転する打撃力があった。現チームはまだ、取られたら取り返すお家芸を、何試合も発揮する力はない。だからこそ同監督は強調する。「改善というより、経験を積まなきゃいけない」。

 盛岡大付は昨夏、初めて1大会2勝を挙げた。今大会は春夏通じて初めて8強入りし、1歩ずつ進化の階段を上がっている。「また戻って来たいと、選手が本気になることがテーマ」と、関口監督は心の強さも求めた。3季連続甲子園となれば県勢初。岩手の主役になって、三たび「盛付劇場」開演へ。新たなスタートを切る。【久野朗】

 ◆岩手県勢の春4強 84年の大船渡が初。09年の花巻東は菊池雄星(現西武)を擁して決勝まで進出。決勝は清峰(長崎)に0-1と惜敗した。夏のベスト4は1917、19年に盛岡中(現盛岡一)、09、13年の花巻東の計4回。