柏のスタンドには、応援団の最前列でたった1人、ユニホームを着た小笠原詩歩外野手(3年)がメガホンを持って声援を送っていた。背中には背番号15。部員15名で、最後の番号をもらった。でも、ベンチには入れない。それは、女子部員だったから。小笠原は、応援団とチアガールの最前列に立ち、攻撃の時はもちろん、守備の時も、ずっと熱い声援を送り続けた。

 1年生の選手が打席に立つと、応援団に向かい「1年生でめっちゃ頑張ってきた選手です! 皆さん、大きな声で応援お願いします!」。選手1人1人へ送るメッセージともとれるその応援は、小笠原の愛情であふれていた。

 小学校から始めた大好きな野球。地元の高校で続けたい、と柏に進学した。たった1人の女子部員。1年夏の新チームからは、人数が足りず、思いがけず背番号をもらった。しかし、どんなに頑張っても公式戦のベンチには入れないもどかしさ。さらに、体力面、身体面での差に、どんなに頑張っても勝てない悔しさも重なり、部を辞めようと考えたこともある。そんなとき、「野球をここで辞めたらもったいないよ」「俺たちは、ずっと一緒にプレーしたいと思っているよ」。チームメートが声をかけてくれた。

「すごくありがたくて…。私は本当にいいチームメートに恵まれました」。

 たとえ試合にでられなくても、チームメートの期待に応えたい。歯を食いしばってでも、練習はすべて同じメニューをこなした。

「『大丈夫だよ。無理しなくてもいいから』そんな優しい声をかけてもらうと、逆に悔しくなっちゃって。『絶対にやってやる!』って頑張っちゃうんですよね(笑い)」。

 チームメートの輪に入って野球をしていることが、何より幸せだった。

「一緒にプレーをしてハイタッチしたり、ベンチワークも楽しい。個人競技では味わえないこと。みんなが支え合って1つの試合を戦う。そこに自分が関われることが一番楽しいんです」と、目を輝かせる。チームメートが本当の野球の楽しさを教えてくれた。

 だから今日は、2年半の感謝の思いを込めた精いっぱいの応援だった。

「壁は高かった。つらいこともたくさんあったけど、みんながいたから乗り越えられた。本当に感謝したい。私の2年半、充実した高校野球でした」。目を潤ませながらも、最高の笑顔を見せた。