鈴木大地スポーツ庁長官(52)が高校野球を語るインタビュー。「選手ファースト」の視点からさまざまな提言をしてきたが、最終回では、指導者や野球全体を統括する組織の必要性などに言及。日本高野連にも柔軟な対応を呼びかけた。【取材・構成=荻島弘一、古川真弥】

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部活動改革を進める鈴木スポーツ庁長官は「高校野球は部活の王様的地位にいる。高校野球が変われば、部活動のあり方も大きく変わる」と話す。カギは、指導者が握るとみている。

提言(5)指導者をライセンス制に

鈴木長官(以下、鈴) 野球は裾野が広い分、いろんな指導者がいる。素晴らしい人も、たくさんいる。ただ、質が足りていないと言わざるを得ない人もいる。少年野球だと、昔ちょっとやっていたというだけで教えている。ライセンス制にするなどして、一般的な知識がある人が教えるべきだと考えている。

先日、訪問したというキューバの例を挙げた。

鈴 少年野球も視察したが、指導者はみんなライセンスを持っている。びっくりしたのは、必ず大学で、子どものモチベーションを上げることも勉強してきていること。日本の実態を話したら、逆に驚かれた。日本の指導者は、言葉でモチベーションを高められる技量が足りないと感じた。

さらに、指導者を変えるには、ライセンス制だけでは不十分だという。

提言(6)指導者の評価法を変えよう

鈴 高校野球では、甲子園で優勝した監督が素晴らしいと評価される。だから高校も、選手に無理させてでも勝つ監督を呼んでくる。確かに、優勝した監督は素晴らしい。でも、甲子園で優勝しなくても、ケガをさせず、将来的に伸びる選手を育てる指導者の方が、むしろ素晴らしいかもしれない。評価の仕方を変えないといけない。

今を取るか、先々までを取るか。即答した。

鈴 キューバでは25歳でメジャーリーガーをつくる気持ちで指導し、野球をいつまでも好きでいられるよう指導する。そっちの方が、私は指導者として評価できる部分があると思う。高校を卒業後の人生を大事にする指導者であって欲しいし、そうでないといけない。

さまざまな提言を行ったが、戸惑うことが1つあるという。

提言(7)プロ、アマ全ての野球統括組織が欲しい

鈴 野球界はいろんな団体がありすぎで、どこに何を話したらいいのか、分からない時がある。もっと大局的に、日本の野球界を、どう良くするのかを共通に考える体制の充実を野球界自らが図って欲しい。

サッカー界には、プロアマ全てを統括する日本サッカー協会がある。その違いから野球界への希望を述べたが、現状、高校野球を変えていくには、日本高野連との連携が不可欠だ。

提言(8)日本高野連は多様な意見に耳を傾けて、柔軟に検討して欲しい

鈴 高野連の皆さんと話はしている。お願いしたいのは、意思決定において、同じ考えの人たちの集まりであって欲しくないということ。いろんな思いがある中、難しい面もあると思うが、生徒第一主義を貫徹し、時代の変革とともに絶えず改革を進めて欲しい。

最後に昨夏甲子園を沸かせた金足農・吉田輝星(現日本ハム)を引き合いに、メディアの責任にも触れ、締めくくった。

鈴 「疲れ切って打たれる姿に涙するのが日本人の国民性」と言う人がいる。その時点で、もうスポーツじゃない。ドラマだ。何百球の熱投を称賛するのは、吉田君を最後にしよう。そういう記事を書いてもいいが、その選手のその後の人生に責任を持てますか? 大事なのは、プレーヤーズファースト、勝利至上主義ではなく、勝利主義です。(終わり)