第101回高校野球選手権岩手大会が11日、開幕する。最速163キロ右腕・佐々木朗希投手(3年)擁する大船渡は、15日に遠野緑峰との初戦を迎える。日本のふるさと・遠野は市民の22%が菊池姓で、遠野緑峰もメンバー20人中9人が菊池君。まさかスタメンに9人並ぶのか!? 強烈なビジュアルの可能性を探りに、滞在中の盛岡から“菊池の里”へ向かった。

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まず遠野市役所へ立ち寄った。電話帳を拝借。菊池姓だけで7ページ半…数える。1586世帯が掲載されていた。漢字違いの菊地さんも、全国上位の山田さんや渡辺さんも4世帯ずつなのに。うわさにたがわぬ、菊池さんの街だ。

かなり疲れた目に、緑が優しい。牛の香りが漂う。牧草地横の校庭に、9人の菊池君ら球児たちの「こんにちは!」が響く。遠野緑峰野球部は20人中9人が菊池君、20人中9人が農業系の生産技術科所属で、20人中10人が高校からの野球初心者だ。

「普通にやっていたら、連合チームですよ」と寺長根一真監督(45)は言う。昨春から「脱・丸刈り」にし、口説き文句は冗談半分の「有給休暇あるよ」。週1回の練習オフに加え、月3回くらいは自由に部活を休んでもOK。「そんなことをしないと野球部に人は来ない」と苦笑するが、工夫して集めた彼らをグラウンドでは甘やかさない。

開幕前夜、ノックでミスが目立った。「あのさ…弱いよ。取材で浮ついてるのか。試合で出るぞ」と監督の声が響く。初戦の相手は全国から注目を集める佐々木がいる大船渡。菊池虎太郎主将(3年)が「大船渡、引いてきます」と宣言して、本当に引いてきた。

大観衆と多くのカメラに囲まれた試合は必至だ。「大船渡のおかげで、うちの名前は多分たくさん出る。でも惑わされるな。強くたくましくプレーして、お客さんを味方につけろ」と選手に説く。厳しい戦いになると自覚する。それでも「必殺技はあるので」と寺長根監督は不敵に笑う。

牧歌的な景色と興味深い話に気をとられ、本題を忘れていた。必殺技…こそっと教えてください。「だめ、ヒミツです」。打順はどうなりますか。「1番と4番は菊池。何人か菊池が並ぶことはあるかも。あとはヒミツ」。えー、そもそもどの菊池君? 遠野のカッパ伝説のごとく真実はぼかされた。菊池、菊池、菊池…の連鎖に佐々木も幻惑され「新・遠野物語」の完成となるか。日が暮れ、開会式入場行進の練習が始まると、虫の声が聞こえた。【金子真仁】