超多忙助っ人が昆布漁仕込みのパワーで、一矢報いた。函館地区は、南茅部が17年夏以来の単独出場。サッカー部からの助っ人で、6月中旬から硬式野球を始めたばかりの4番山田竜玄三塁手(3年)が、人生初の野球の公式戦で、チーム唯一の安打を放った。試合は大野農・七飯・八雲に0-29で大敗も、貴重な一打で、ノーヒットノーランのピンチから救った。

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4回2死、やや前のめりになって振った山田の打球は、左前に転がった。野球部の練習参加は6月中旬から。練習試合もサッカー部の練習で出られず、初実戦が公式戦だった。球歴わずか1カ月も、しっかり爪痕を残した。「高めのボール。芯にあたって、いい感触はあった。一塁に走っている間、ベンチが盛り上がっているのが聞こえた。抜けてくれて良かった」と振り返った。

キャリアは極めて短いが、腕っ節が強い。「硬式野球のバットは初めてだったが、特に重くもなかったし、最初に持ったときから簡単に触れた」と言う。両親が昆布漁を営んでおり、この時期は、その手伝いで忙しい。前日は午後7時に就寝し、午後11時に起き、この日の午前6時半まで、船に乗りコンブを引き上げ、陸地に運び干す作業を手伝ってからの参戦だった。「小学校のころからやっていたので、眠くはない」。底知れぬバイタリティーと腕力が、貴重な安打につながった。

野球部の敗戦で13日からは本業サッカー部の練習に戻り、8月下旬からの全国高校選手権予選に切り替える。181センチ、81キロと恵まれた体格で、1年時はラグビー部の助っ人で、高校選手権の予選に出たこともある。今回は1年秋から野球部員1人だった浜林龍星主将(3年)に誘われ出場。「浜林君に頼まれて、ぜひ力になりたいと参加した。野球はもともと好きだし、楽しかった」と笑顔で話した。

野球、サッカー、ラグビー、昆布漁と引っ張りだこの“球児”は将来、地元漁協への就職を予定。「いろいろ声をかけてもらい、恵まれている」。若いうちに多くの経験を積み、昆布のように味わい深い男を目指す。【永野高輔】

▽南茅部・藤内大樹監督(27)「野球を始めたばかりの子たちが「楽しかった」と言ってくれた。正直、無理もあったが単独で出て良かった。1年秋から1人で腐らずに練習してきた浜林には、お疲れ様と言いたい」

▽南茅部・浜林龍星主将(3年)(助っ人11人を集め高校3年間で初の単独出場にこぎつけ)「みんなで声を出し、気持ち良く戦えた。最高の終わり方。野球はまた何かの形で続けられたら」