1度は途絶えた夢舞台に立ち、コバルトブルーのユニホームが躍動した。センバツ21世紀枠に選出された磐城(福島)が、国士舘(東京)に3-4で逆転負けも好勝負を演じた。不調だったエース右腕・沖政宗(3年)が8回4失点、114球で粘りの完投。打席では2回に適時打を放ち、最後の大舞台で一花咲かせた。6回には草野凌内野手(3年)の適時打で反撃ムードを漂わせ、昨秋の都大会王者を追い詰めた。福島県の高校球児の思いも背負い臨んだ一戦。ナインは走攻守で全力を出し尽くし、95年夏以来25年ぶりの甲子園で完全燃焼した。

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状態は万全でなくても、エースの本能で投げきった。磐城・沖が最善を尽くし、1人でマウンドを守った。最速141キロを誇る直球に好調時の面影はなく、この日の最速は134キロ。それでも変化球を駆使し、丁寧にコースに投げ込んだ。全24アウト中22個を打たせて取った。守備陣も好守で沖を支え、「みんなに守備で支えてもらった。投げやすかった」と感謝した。8回は2三振を含む3者凡退で切り抜け、甲子園のマウンドを降りた。「最後は腕が壊れてでも抑えて、最終回の攻撃につなげたかった」と序盤は抑えていた左足を高く突き上げ、思い切り右腕を振った。ベンチに戻ると、仲間と笑顔でハイタッチを交わした。

逆境を乗り越えた先に、甲子園のマウンドがあった。センバツ出場決定の吉報で歓喜に沸いた1月24日から、約1カ月過ぎた3月11日。くしくも東日本大震災から9年の日に、コロナ禍でセンバツ中止が決まった。5月20日は夏の甲子園もなくなった。磐城ナインも試練に打ちひしがれた。

同校野球部も約2カ月間の活動自粛を余儀なくされ、満足のいく練習ができなかった。沖は投球フォームのバランスを崩し、右肘にも悪影響を及ぼした。「何でこんな時期に…。県独自大会の時から、投げられるのか分からない状況だった」。それでも、伝統校の背番号1はマウンドを守り続けた。「目標としてきた甲子園で投げられて光栄だった」と悔いはなかった。

ライバル校の思いも背負っていた。県独自大会の準々決勝。聖光学院に2-4で敗れた。球場を後にする沖に、聖光学院・斎藤智也監督(57)は「状態が悪い中で、よく投げたな」とたたえ、「甲子園で簡単に勝てると思うなよ。甲子園を甘く見られたら困るからよ。俺らに負けて、糧にしてもらいたかったんだよ。(甲子園で)期待しているからな」。聖地を知り尽くした指揮官から、激励の言葉をもらった。沖は「聖光学院は県で優勝しても甲子園に出られなかった。納得してもらえるような試合をしたかった。負けて申し訳ないです」。戦友の思いを背負った分だけ、涙がこみ上げた。

後輩には確かな財産を残した。佐藤綾哉投手(2年)はベンチで沖の姿を目に焼き付けた。「沖さんのように崩れない投手を目指したい。来年は自分がエースとして(甲子園に)帰って来るだけでなく、先輩たちの分も勝ちたい」と気持ちを奮い立たせた。創部114周年で新たな歴史を刻み、コバルトブルー魂は次世代へと確かに継承された。【佐藤究】

 

【磐城ナインのコメント】

<1>沖政宗(3年) 試合を実現していただき感謝。先生、仲間に会えて幸せ。

<2>岩間涼星(3年) 甲子園でPlay Hardを実践でき楽しかった。

<3>小川泰生(3年) 最高の舞台でプレーでき楽しかった。先生、仲間に感謝。

<4>草野凌(3年) ここまで野球をさせてくれた両親に最高の恩返しができた。

<5>首藤瑛太(2年) 純粋に野球を楽しめた。この経験を絶対次に生かしたい。

<6>市毛雄大(3年) 甲子園で自分の力を出し切れて良かった。感謝したい。

<7>清水真岳(3年) 最後に甲子園でプレーでき、ヒットを打てて良かった。

<8>馬上斗亜(3年) 甲子園という最高の舞台でプレーできて幸せでした。

<9>竹田洋陸(3年) 最高の時間を過ごせた。ありがとうございました。

<10>樋口将平(3年) 甲子園で安打、封殺と最高のプレーができて楽しかった。

<11>佐藤綾哉(2年) 来年は自分がエースとして戻ってきて3年生の分も勝つ。

<12>国府田将久(2年) 楽しかった。来年も戻ってこられるように頑張りたい。

<13>柳沢諄(2年) 最後の打者になり悔しい。甲子園でプレーでき感謝したい。

<14>今野颯良(2年) 3年生の最後の舞台に出場できて光栄でした。

<15>上田賢(2年) 甲子園は最高の場所でした。また来年戻ってきたいです。

<16>菅波陸哉(3年) 甲子園で高校野球を終えることができ幸せでした。

<17>白土遥也(3年) 悔しいがこれからの糧にしたい。支えてくれた人に感謝。

<18>野田和孝(3年) 出場はなかったけど夢の舞台に立てて、やり切れました。

<19>鈴木隆太(2年) 3年生と甲子園で戦えて良かった。来年戻ってきて勝つ。

<20>野部福太朗(1年) 3年生と最後に甲子園という最高の舞台ででき幸せ。

☆遠藤百恵記録員(3年) 大好きな仲間と最後まで全力で戦えて幸せでした。

★後藤浩之部長(36) 選手に感謝。この試合を財産に伝統をつなげていく。