今秋のドラフト上位候補、明石商(兵庫)・中森俊介投手(3年)が桐生第一(群馬)を相手に9回5安打2失点で完投勝利を挙げ、高校最後の夏を終えた。150キロは1球だけだったが、安定感のある投球でチームを勝利に導いた。進路については熟考し、結論を出すが、プロは「クレバー」「令和のスター選手になれる」と絶賛。プロ志望を表明すれば、ドラフト戦線を騒がせる存在になる。

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これが中森の経験値と力量だった。初回に走者を背負ったが、持ち味の「柔」の投球。140キロ台後半の直球、スライダーなどを交えて1回を締め、2回から6回まで3者凡退。3回には自己最速に1キロ差に迫る150キロをマーク。9回2死から適時打を打たれて1点差に迫られたが「ピンチにしてるのは自分自身。自分の力で乗り切りたかった」。142キロ直球で二ゴロ。マウンドは守り切った。

「終盤に体力のなさが出ました。勝てたことは良かったけど、課題の残る試合だった」と高校最後の完投勝利を振り返った。

最終戦の前夜、メールが届いた。「人生を変えてくれた人」という篠山東中(兵庫)時代の野球部顧問の松田淳二さん(49)からだった。「甲子園の舞台で1人1人との勝負を楽しんでおいで」。中学卒業後も、気にかけてくれた。「自分の役割を果たせるように準備して最善を尽くすので、応援お願いします」と返信。集大成の投球を誓った。

出会ったばかりの時は、野球に自信満々な12歳。ミスをしても、自分の非を認めないこともあった。中学3年間、野球のことも、日常生活で感謝することの大切さも伝えた。重心を下げることを意図とした、代名詞の胸元で手を広げる動きも松田さんの教えだ。

松田さんは、高校進学直前の中森から手紙をもらった。「ぼくが甲子園に出たら絶対に見に来てください」の文字。1年夏から聖地で投げる姿を見届けた。この日は自宅でテレビ観戦し「みんなで試合をつくっていこう、というのが見えて大きくなった」。2年半、お疲れさま。帰ってきたら、ゆっくり話がしたいよ、と心の中で語りかけた。

夏が終わった。ドラフト上位候補に挙がる右腕は進路について「まだ決めていません」と語るにとどめ、大学進学の可能性も残した。4回目の甲子園。自分が投げて勝たせる、エースの役目は全うした。【望月千草】

◆中森俊介(なかもり・しゅんすけ)。2002年(平14)5月29日生まれ、兵庫県出身。篠山東中では軟式野球部。中3夏から三田ボーイズ所属。明石商では1年春からベンチ入り。182センチ、87キロ。右投げ左打ち。