「特別な夏」に、控えの3年生が意地を見せた-。「甲子園高校野球交流試合」は最終日を迎え、大阪桐蔭が東海大相模(神奈川)と初対戦し、東西横綱級対決に競り勝った。プロ注目の選手が多数出場する中、同点で迎えた8回に背番号14の主将、薮井駿之裕内野手(3年)が決勝の2点適時打を放った。18年春夏連覇以来の甲子園は、3年生にとって最初で最後の晴れ舞台。粘り強い野球で甲子園12連勝を飾った。

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控えの主将が甲子園のヒーローになった。同点の8回1死二、三塁。薮井は3球目にスクイズを試みたが、ファウルで失敗。「バントは得意ではない」と切り替えた。9球目の内角直球を詰まりながらも左翼線へしぶとく落とした。決勝の2点タイムリー。「いいところに落ちてくれました。主将をやっているので、こういうところでやらないと」。ベンチに向かって、ガッツポーズを見せた。

その両手の打撃用手袋には「主将力」、「日本一」の文字が刺しゅうされている。17年の福井章吾主将(現慶大)から、主将が引き継ぎ、試合で使用してきた。過去に甲子園に出場したチームの主将は、全員1桁背番号だった。薮井は「控えという立場なので、自分より力が上の者をどう従えていくか」と悩みながらもチームの先頭に立ってきた。西谷浩一監督(50)は「野球の神様がキャプテンのところに回したような…、そこでしぶといヒットを打つ。非常に主将が苦労して悩んで悩んで作ってきたチーム。最後に打ってくれたことはチームにとっても非常に大きな1勝になった。大阪桐蔭の歴史の中にも残る主将になったんじゃないか」とほめた。

1年夏はボールボーイとしてグラウンドレベルで甲子園を経験し、根尾(中日)藤原(ロッテ)らの春夏連覇を間近で見た。2年時には春夏とも甲子園に行けなかった。悔しさを胸にセンバツ出場を決めたが、新型コロナウイルス感染拡大のために中止。夏の全国高校野球選手権大会も中止となった。その時に根尾、藤原から3年生へ10本ずつの木製バットが贈られ、西谷監督を通じて「こういう状況だけど、腐らず頑張れ」とメッセージをもらった。

1試合だけだが、メンバー全員が初めてプレーする甲子園。薮井は「命をかけて勝たないといけないと思った。甲子園に飢えていた分を全部出し切ろうと話していた。目標の日本一にはなれなかったけれど、少しはその価値観に近づけたかな」と笑った。先輩の思いを受け継ぎ、甲子園の連勝を「12」に伸ばした。特別な夏に、特別な勝利。頼れる主将が最後に、最高の輝きを放った。【石橋隆雄】