甲子園を覆う雨雲が切れてきた。雨は限りなく弱くなってきた。午前9時31分だ。午前11時から第1試合を行う場内アナウンスが響いた。12日のノースアジア大明桜(秋田)対帯広農(北北海道)がノーゲームになったときから降りしきっていた雨脚が弱くなる。内野の黒土から、みるみる水たまりが消えていく。日本一の水はけの良さといっていい。甲子園のスゴさを体感できるシーンだ。ある年の冬、内野の黒土を掘り起こしている作業を見た。阪神園芸の金沢健児さんは「土を空気に触れさせてやるんです」と話していた。2月のキャンプが始まる前だった。いわゆる「天地返し」を行うことで、砂と黒土をバランスよく混ぜ直す。

金沢さんの著書「阪神園芸 甲子園の神整備」(毎日新聞出版)に、知られざる土の秘密が紹介されている。「何度も何度も天地返しをして、働いてもらっている土だ。開場当時からの土、つまり1世紀ほど前の土も、現役で活躍しているはずである」。12日から3日連続の順延は実に1975年(昭50)以来、46年ぶりだった。だが、甲子園には100年の土がある。年季が違う。3日間の雨をはじき飛ばす、懐の深さがある。グラウンドキーパーが一斉にグラウンドに現れ、水たまりに白い吸湿剤を置いていった。外野の芝生上はローラーで作業し始めた。雨がやんだ。「神整備」の始まりである。