日刊スポーツ評論家の田村藤夫氏(61)が決勝のポイントに、智弁学園バッテリーが選択した初球、智弁和歌山・宮坂へのスライダーを挙げた。

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先発西村が初球に選んだのは116キロのスライダーだった。開始直後の初球は、ストライクを取りやすいストレートから入ることが多い。打者も、初球ストライクを打って凡打は避けたい心理が働き、見逃す場合があるからだ。

その前提があり、西村-植垣のバッテリーは、積極的に打ってくる宮坂の能力を見極めた上で、初球ストレートを仕留めさせず、より確実にストライクを取れるスライダーを投げたと感じた。左打者宮坂に対し、左腕西村のスライダーならば、カウント0-1で試合に入れる流れを描いていたのだろう。

そのスライダーが甘かったとはいえ、あれだけ見事な中越え二塁打とされた。まだサイレンが鳴り終わらない中、1球で無死二塁。いかに強豪智弁学園のバッテリーでも、心理的に尾を引く1球だった。私が捕手であったなら「スライダーを狙われたのか」との疑問が、心の中で引っかかってしまう。大きな意味を持つ初球だった。

この後、2番大仲にも粘られ、最後はスライダーを右前に運ばれてつながれた。これは結果論となるが、初球スライダーを選んだことで、西村-植垣のバッテリーは混乱しつつも懸命にしのいだ初回だったと想像する。

相手に衝撃を与えた宮坂には高いレベルを感じた。あのスイングは、私の感覚としてはスライダーを狙ったのではなく、ストレート待ちの中で甘いスライダーに対応したように見えた。バットコントロールが巧みで、この試合でも追い込まれても変化球に対応する技術の高さを見せた。

初球ですべてが決まったという極論ではなく、最初の1球にバッテリーの狙いと、先頭打者の能力のぶつかり合いが透けて見える、高度な戦いを感じた。