ケンタッキーフライドチキンを興したのは65歳のカーネルサンダースだった。もしも「俺は年だから」と人生に線を引いていたら世界の食は少々、変わっていた。先週末、年齢で生き方を区切らない人に触れた。

11月6日の秋季東海大会準決勝。大垣日大(岐阜)は日大三島(静岡)に押されていた。4点を勝ち越され、6回の攻撃前、77歳の阪口慶三監督は円陣でナインにとうとうと語った。

「相手は投手と打者で1球1球戦っていて、打者も絶対に打つと、みなぎっていた。ウチの打線は観衆、応援が目に入るのか、気持ちが高ぶっている。投手と1対1で戦って、粘り強く相手を見習って、ファウルなく、1球で仕留めよう」

すると劣勢のなか、終盤に3点を奪った。甲子園に春夏通算32度出場し、東邦(愛知)で89年センバツを優勝。歴代8位の甲子園38勝を重ねるベテラン監督らしく、試合序盤を操った。同点の4回、1死三塁のピンチになるとバッテリーに命じた。2度のけん制、初球ウエスト。スクイズを見破り、本塁で刺した。「あそこはスクイズの流れ」。11年以来、11年ぶりのセンバツに王手をかけ、勝負勘はさえた。

試合前、孫のような選手の背中を押した。先発の五島幹士投手(2年)に「お前なら大丈夫。任せた」と言って送り出した。野手陣には「相手の喉元に食らいついて、しっかり自分らの魂を持って、相手の魂に負けず、気持ちで向かっていこう」と鼓舞。重圧がかかるなか、緊張を和らげた。

「今日は2つ、エラーしてもいいよ。ボールに思い切って攻めろ」

だが、攻める気持ちは空回りした。5回の4失点は2死走者なしからの失策が引き金だった。右前適時打の本塁返球も高く浮き、一塁走者の生還も許してしまった。4失策が響いた。だが、阪口監督は振り返る。

「残念だが、選手を責めるわけにいかん。エラーする指導をしたというふうに考えないといけない。『2つのエラーはいい』で、ああなったかも分からん」

腰をかがめてグラウンドを歩いた。3時間近い試合後は椅子に腰掛けて質問に答えた。77歳には、しかし、底知れない覇気がある。攻撃中はベンチで立ち続け、身ぶりで指示を出した。「投手力、攻撃力、守備力、機動力。すべてに鍛えないといかん。12月に合宿があるから、徹底して夏に向けます」。この先も指揮を執るのか聞かれれば、眼光は鋭くなり「そのつもりです」と語気を強めた。

来夏の甲子園に出場すれば、00年以降では史上最高齢の78歳3カ月で迎える。取材後、球場の外で、たまたま、指揮官が小走りで駆けている姿が目に入った。