女子だからこそ、小よく大を制することができる。今春の全国高校女子硬式野球選抜大会で福井工大福井が初優勝した。決して下馬評の高くなかったチームが頂点にかけ上がれた秘訣(ひけつ)を探った。【取材・構成=柏原誠】

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女子では初めて東京ドームで行われた4月3日の決勝。女子高校野球の「女王」といえる神戸弘陵(兵庫)を延長10回タイブレークの末、2-1で下し、頂点に立った。

福井工大福井はそれまで4試合すべて接戦。決勝を前に中村薫監督(37)は頭を抱えた。「相手の選手名を見て、一体どうやって勝てばいいんだ…と」。女子球界で名の通った好選手ばかり。一方、自軍は主力に故障者が続出していた。

先発の吉森みひろ(3年)が粘り強く10回を1失点。堅い守りでもり立て、少ないチャンスを生かした。決勝点は相手の送球ミスだった。同監督は「守り抜けたのは大きいですね。勝因を挙げるならチーム力です。本当にすごい。よく勝った」と目を丸くした。

なぜ、女王を倒せたのだろうか。主将の東(あずま)ここあ内野手や、4番の山田恵外野手(ともに3年)らトップクラスの選手もいるが、個々の能力に頼る野球は全否定。練習から徹底している。シートノックは「ウオーミングアップです」。メインはそのあと。状況を設定したノックに始まり、対戦形式で打撃、守備、走塁をひたすら突き詰める。1つ1つのプレーに東主将を中心に細かい指摘が飛ぶ。実戦に直結した練習は日が暮れるまで続く。

男子の野球に憧れて競技を始めた選手もいる。だが強化は男女の違いを直視することから始まる。

「女子は打てないんです。打撃に頼っていると、打てない場合に何もできなくなる。守備と走塁。そして野球を覚えること。その3つができなかったら使わない。全員に公言しています。守備では『取れるアウトをしっかり取ろう』もテーマ。投手が打ち取って、アウトだと思ってからのミスは精神的にもきつい」

監督10年の中村監督は同校の男子野球部OB。当時の恩師、大須賀康浩氏の「守備で野球を覚える」考えも持ち込んだ。掲げるのは簡単だが、高いレベルで浸透させるには並大抵の練習では足りない。夏の追い込み時期に、朝から夜まで体を動かした日もあった。

近年は全国から野球推薦で選手が集まる。3学年で56人の大所帯。意外にもグラウンドを離れての活動は自由。寮の決まりごとも少なく、リラックスできる。ただし「野球を真剣に向き合えない選手はグラウンドには入れません。個人競技ではない。ほかの子に迷惑をかけるので」。新入生には目配り、気配り、心配りの大事さを伝える。目の前のゴミを拾えるか、仲間の悩みに気づけるか。「すべて野球につながります。何より人生はここで終わりじゃない。人として成長してほしい」願いがある。これらをやり通していく先に全員野球、スモールベースボールの結実がある。

男子は科学的トレーニングが当たり前。海外の影響も受けて、いまやパワー全盛の時代だ。体格や筋力に恵まれない選手がほとんどの女子野球では、きめ細かなスタイルが1つの方向性であるのは間違いない。

○…昨夏に続き、選手権の決勝は甲子園で行われる。目指す舞台があるのは選手のモチベーションにつながっている。東主将はうれしそうに言う。「東京ドームは広くて声が響いて、全員ふわふわしていました。2チームだけが経験できるんだから楽しもうよ、と。楽しかったです。東京ドームも甲子園も、これまで女子がプレーできる場所ではなかった。すごい舞台を用意してもらえることに感謝して、甲子園でも優勝したいです」。

吉森は「今までで一番うれしい経験だった」と振り返った。昨夏の甲子園を経験した神戸弘陵と高知中央の選手も同じように語っている。男子の甲子園のように、アイコンがあれば競技普及も進む。山田は「女子はチーム数も増えてきて、男子と違う魅力があることをもっと知ってほしい。私は日本代表が目標。日本代表にも注目してもらい、女子野球をやる人が増えてほしい」と願いを込めた。

◆女子高校野球 98年発足の全国高校女子硬式野球連盟によると5月現在、加盟校は43。今春の選抜には連合チームを含めて過去最多の38チームが参加した。加盟準備校も10以上あり、今夏の選手権は約50校が参加予定。新人戦のユース、春の選抜、夏の選手権が高校の3大大会。現状ではどの大会も参加=全国大会だが、参加校が増えており予選の開催も今後検討される。全カテゴリーの競技人口は硬式が約2500人、軟式との合計は約2万5000人で、減少が続く男子とは逆に急増中。

◆福井工大福井女子硬式野球部 2012年(平24)創部。現在の中村薫監督が初代監督で部員6人でスタート。19年秋の全国女子硬式野球ユース大会で全国初優勝。春の選抜大会と夏の選手権大会は8強が最高だったが、今春の選抜で初優勝。現在の部員は3年15人、2年24人、1年17人の計56人。福井市内の学校に近い専用グラウンドなどで活動。男子が強豪で知られる福井工大にも、4月に女子硬式野球部が創設された。