あまりにも大きい重圧が、育徳館の4番信濃勇太外野手(3年)のバットにはのしかかっていた。
今大会初の継続試合は、育徳館攻撃の9回2死三塁から再開された。スコアは2-3。一打同点の場面。左打席に立った信濃は一つ深呼吸し、息を整えてからバットを構えた。「いつも通りに」。あと1死で敗戦という酷な状況でも、心は落ち着いていた。
カウント2-1から外角カーブに当てるも、結果は一ゴロ。一塁を駆け抜け、最後の打者となった信濃は両膝にしばらく手をついたまま動けなかった。「現実なのかな。終わったのかなという気持ちで…。後悔がないと言えば、うそになりますけど、1球1球に集中することはできた」。試合後はチームメートに「ごめん」とひと言。それでも、仲間からは「(信濃)勇太のせいじゃない。全力で戦った結果。打席に立ってくれてありがとな」。チーム一の高校通算15本塁打を誇る信濃を、誰も責めることはなかった。
7日に継続試合が決まり、そこから3日連続で雨天順延となった。中3日のインターバルは眠れない夜が続いた。「布団に入っても、すぐに目が覚めて…」。どれだけいいイメージを膨らませても、「夏は負けたら終わり。どうしても、不安が消えなかった」。1点を追う9回2死三塁から再開とあって、食事も緊張からのどが通らず、うどんなど軽めのメニューを母親に注文したという。苦悩の日々を過ごした。
帽子のつば裏には「英姿颯爽」の言葉を刻み、最後の夏に臨んだ。「グラウンドでは勇ましく、恥じないプレーをと思って。負けてしまったが、一生忘れられない夏になった」。5日間に及んだ異例の一戦を終え、最後はすがすがしい笑顔を見せた。【佐藤究】

