福島第1原発の事故で転校を余儀なくされた伊勢崎清明放送部の大内彩加さん(3年)が、9日の群馬大会開会式(上毛新聞敷島球場)の司会を務める。4月下旬に福島・飯舘村から群馬県内に避難して転校。5月20日に行われたNHK杯全国放送コンテスト群馬県大会の朗読部門で2位に入り、全国大会の出場権を獲得した。開会式の司会を務める3人のうちの1人に選ばれ、「ひと言ずつの各校紹介ですけど、3年間の選手の努力を会場中に伝えたい」と意気込んでいる。

 大内さんは福島・原町で放送部に所属。2年続けてNHK杯全国放送コンテストに挑戦したが、全国大会には進めなかった。「ら行の発声が他の人と違ったんです」。最後の全国大会を目指し、1日3時間の発声練習に熱を入れて取り組んでいた。そんなとき、あの震災が起きた。

 自宅の屋根や壁は崩れ落ちたが、幸いにも一緒に暮らす祖母と母は無事だった。余震を警戒し、1週間ほどは軽自動車の中で寝泊まり。そんな状況でも近くの避難所に毛布を届けたり、おにぎりや水を運ぶボランティア活動を続けた。

 恐怖や不安が渦巻く中、朗読の練習だけは欠かさなかった。震災前、放送部の顧問の先生から「どこに行っても、どんな状況でも大会に出るなら練習しなさい」と言われた。転校して迷わず放送部に入部。ストップウオッチとアクセント辞典が内蔵された電子辞書を持ち歩き、「暇さえあれば練習しています」。恩師の教えは忠実に守っている。

 中学時代はいじめにあっていた。学校に行くことが怖くなり、家に閉じこもることが多かった。そんなとき、テレビでギャグコメディーのアニメ「銀魂」を見て、大きな声で心の底から笑うことができた。笑いがあって人情味ある作品の内容以上に、登場人物の声に引き込まれた。「声で人をこんなに元気にさせられるものがあるんだ」。声優になるという目標ができ、高校から放送部に入った。

 震災で転校しなければならなくなったが、群馬で目標だった全国大会への出場を勝ち取った。そして「大好きなんです」という夏の高校野球で開会式の司会という大役を得た。「被災して転校もあったけど、何とか頑張ってここまで来られました。このパワーを福島の人たちも伝えたい」。元気いっぱいの声で盛り上げたいと思っている。