<高校野球岩手大会:大船渡6-4久慈>◇20日◇4回戦

 大船渡が久慈に競り勝ち、東日本大震災の被害が激しい沿岸勢で唯一のベスト8進出を決めた。高校入学前のボランティア活動で「おにぎり3000個」を握り握力が強くなった鈴木太朗二塁手(1年)が、4回に決勝打を放った。

 手に汗「握る」試合で、大船渡のスーパールーキーが大仕事をした。3-4の4回2死満塁。今大会から1番に抜てきの鈴木が、内角から真ん中に来る初球をとらえ、中越えに走者一掃の3点適時二塁打を放った。「氏家さん(規元主将=3年)から『初球から打っていけ』と言われていたので」。1年生は初々しく教えを実行した。

 強くバットを「握り」締めたその手は、4カ月前、おにぎりを「握って」いた。震災直後、避難所になっていた母校の大船渡市立立根(たっこん)小で炊き出しのボランティア活動を行った。鈴木の小学5、6年時代の担任で、ともに活動した田村治男教諭(47)は「全体で1日9000個ほど握るうち、太朗は1日300~400個は握ってくれた」。3月13日~4月13日の間に計7、8回は通い、ざっと3000個は握った。父宏治さん(48)は「それで握力がついたんじゃないかな」と笑った。1日4、5回に分けて米を「握った」空き時間は、硬球を「握って」いた。「中学時代は軟式だったので、早く硬球に慣れようとして」と父宏治さん。入学後、すぐ活躍できるよう準備していた。

 家族の夢も「握り」締めている。昨夏も8強入りした大船渡のメンバーには兄優作さん(19)がいた。父宏治さんも野球部OB。兄弟で、父子2代で甲子園を夢見る。

 中学時代、地区選抜「オール気仙」で全国大会8強の鈴木には、強豪私立の誘いもあった。が「父と兄が果たせなかった甲子園出場を、同じ高校でつかみたかった」と大船渡に進んだ。入学は震災の影響で1カ月遅れたが、気持ちは切れなかった。

 今日21日の準々決勝で第1シード花巻東に挑む。「優勝候補。1球1球に集中して攻めの姿勢を貫きたい」と拳に力を込めた。甲子園切符をその手に「握る」と誓うかのように…。【木下淳】