<高校野球福島大会:いわき光洋1-0学法石川>◇23日◇4回戦

 いわき光洋が、00年の創部以来初の8強入りを決めた。マネジャーを除く部員55人中唯一、自宅が津波に流された先発のエース遠藤将大(3年)は、6回6安打無失点と粘投した。「おにいに、校歌を聞かせてあげたい」。今日24日の準々決勝を迎えることには大きな意味がある。関東の私大に通う兄翔太さん(19)が、応援に駆けつけるからだ。

 「1度死んだと思った」。遠藤は震災発生時、いわき市平豊間の実家にいた。海までは100メートルもない。母由美さん(46)と帰省中の翔太さんと避難するため、先にワゴン車に乗り込んでいた。だが、波の到達は予想以上に早く、遠藤はワゴン車ごとのみ込まれた。

 翔太さんも濁流にのまれていたが、木に引っ掛かって助かった。由美さんの無事を確認し、弟の名前を叫んだ。「まさひろ、いるか!」。遠藤は津波がひく際に運良く開いたワゴン車のドアから抜け出し、浮遊する屋根にしがみついていた。「おにいも、無事で良かった」。それ以上、何を話したかは覚えていない。「長男がいなかったら、2人とも助からなかった」。由美さんは、今でもそう思っている。

 遠藤は、同校のOBでもある翔太さんの背中を追い続けてきた。ソフトボールから始め、野球に転じたのも兄の影響だった。教員免許の取得で多忙な中、22日には「恐れず、頑張ってこい」とメールをくれた。「打って投げて、全力で頑張ってるところを見せたい」。そして、スタンドから見守ってくれるおにいに、勝利の校歌を届けたい。【今井恵太】