<高校野球埼玉大会:花咲徳栄2-1春日部共栄>◇27日◇決勝

 花咲徳栄が春日部共栄を破り、10年ぶり2度目の夏の甲子園出場を決めた。同点の5回1死満塁、福島・郡山市出身の長尾駿内野手(3年)の左前適時打で勝ち越し。中学時代にともに野球をした相双連合(福島)の4番中村公平遊撃手(3年)と交わした約束を果たした。

 三塁走者が生還すると長尾は一塁で大きくガッツポーズをした。5回裏1死満塁、一打勝ち越しの場面で福島と埼玉の思いが乗った打球は三塁手の頭上を越え、左前にポトリと落ちた。「何としても1点。タイムリーを打ててうれしい」と10年ぶりの優勝を決定づけた一撃に笑顔を見せた。

 福島・郡山市出身の1番打者は震災時、埼玉・加須市のグラウンドにいた。夜、電話を何度もかけ実家の無事を確認。しかし、福島の状況を聞くと自分だけ野球をやっていいのか悩んだ。そんな長尾の背中を押したのは母のメールだった。「しっかり野球に集中しなさい」。覚悟は決まった。

 中学時代同じチームでクリーンアップを打っていた相双連合の中村とは親友。注目された連合チームの4番は14日の福島大会で敗退した。本塁打を放ちニュースで取り上げられた中村に電話をかけた。「お疲れさま」。たわいない会話をした後に「駿、甲子園に行けよ」と思いを託された。

 チームは昨秋県大会で初戦敗退。選手は悔しさをバネに「近年で一番」と岩井隆監督(41)をうならせるほど練習した。春は県大会を制したが、夏の初戦はノーシード校にサヨナラ勝ち。苦しみながらも準決勝ではセンバツ出場の浦和学院を撃破するなど1戦1戦、強くなっていった。

 決勝打の場面を岩井監督は「長尾だから落ちた」と目を細める。被災した親友の思いが春日部共栄を破る適時打になった。「(中村)公平には甲子園決まったよと言いたい。福島のみんなの分も野球をやりたい」。親友との約束を果たした長尾が最高の舞台への切符を手に入れた。【島根純】

 ◆花咲徳栄

 1982年(昭57)創立の私立校。生徒数は1951人(女子832人)。野球部は82年創部で部員101人。甲子園は春2度、夏は2度目の出場。OBに楽天阿部俊人、ボクシング世界王者内山高志ら。所在地は加須市花崎江橋519。

 ◆Vへの足跡◆2回戦3-2富士見3回戦13-0所沢4回戦4-2川越工5回戦7-1南稜準々決勝7-1武南準決勝6-2浦和学院決勝2-1春日部共栄