<全国高校野球選手権:能代商2-0英明>◇14日◇2回戦

 能代商(秋田)が英明(香川)に勝ち、初めて3回戦に進出した。エース保坂祐樹投手(3年)が、120キロ台の球を低めに集めて7安打完封。昨夏の初戦、鹿児島実戦で2回途中5失点で降板した細身の左腕が“大変身”し、秋田勢として16年ぶりの夏の甲子園2勝を挙げた。

 最後の打者を一ゴロに仕留め、能代商の保坂が左腕を力強く振り上げた。172センチ、62キロの細身から直球の最速は130キロがやっと。でも、「気持ちだけは負けない」。秘めた闘争心を111球に注いだ。

 小さいテークバックから、スライダーやカーブ、打者の手元で動く真っすぐを操った。6回1死二、三塁のピンチでは「小さい打者に動かれるより、デカイ方が投げやすい。4番を抑えれば流れが変わる」と強気に攻め、香川大会2本塁打の4番中内を内角低めのスライダーで空振り三振に仕留めた。「速さじゃない。コントロールとキレで勝負」。投球術とマウンド度胸で打者を手玉に取った。

 2年生エースとして臨んだ昨夏の甲子園初戦(鹿児島実戦)では2回途中、29球を投げて5失点で降板した。「思い出したくない経験だけど、乗り越えないといけない」。球のキレを磨くため、それまでの2倍走り込んだ。体重を5キロ増やしてスタミナをつけた。2番吉野が「去年と顔つきも全然違う」と驚くほど変わった。「幼稚と思われるけど、格好良いしリラックスできる」という、大好きな仮面ライダーやウルトラマンのように頼れるエースに“変身”した。

 大阪入り後、甲子園の売店で聖光学院(福島)の携帯電話ストラップを買った。試合中、憧れという歳内宏明投手(3年)のことがふと頭に浮かんだ。同じ東北の右腕は12日の金沢戦で、14個の三振を奪いながら敗れた。「三振が多くても負ける。点を取られなければ負けない」。ボールを低めに集めて27のアウトのうち16をゴロで奪い、秋田勢としては89年の秋田経法大付(現明桜)の中川申也投手以来となる完封を成し遂げた。目標とする秋田商OB、ヤクルト石川を上回る甲子園2勝。「素直にうれしい」と大粒の汗をぬぐった。【今井恵太】◆最短試合メモ

 能代商-英明戦は午前8時1分に始まって9時22分に終わった。74年の金属バット採用後、試合時間1時間21分は85年夏の東洋大姫路―高岡商戦に並ぶ甲子園最短時間となった。当時の東洋大姫路は豊田次郎投手(元オリックス)が74球で完封したものだが、試合は9回表で終わっている。能代商は9回裏まで進んだ。