<全国高校野球選手権:智弁学園9-4横浜>◇15日◇3回戦

 智弁学園(奈良)が9回2死からの劇的逆転で横浜(神奈川)を下し、夏20勝を挙げた。奈良大会を通じて今夏初打席に立った代打の西村竜治投手(3年)が同点打を放つなど、9回のイニング得点では史上最多タイの8点を奪取。奈良県勢の対神奈川県勢春夏連敗を11で止め、16年ぶりに8強入りした。

 9回2死からの奇跡のドラマだった。2-4と2点差に追い上げた2死満塁。小坂将商監督(34)は春季大会以来、この夏予選から1度も打席に立っていない西村を代打起用する思い切った作戦に出た。中学まで大阪・岸和田で過ごし、だんじり祭りにも出たファイター西村のハートに、火が付かないはずはなかった。

 打撃自体は好調。「とにかくおれに回せ」と願い、執念で食らいついた。カウント1ボール、2ストライク。外から真ん中高めに入ってきた横浜左腕、相馬のスライダーはバットの根元に当たってつまったが、執念で右前に運んだ。土壇場で2点を加え4-4の同点だ。代走を送られた西村はベンチに戻ると、感激のあまり泣く選手にもみくちゃにされた。みんなから「よくやった」と声をかけられ、「おれをだれやと思てんねん!

 まだ終わらせるわけないやろ!」とほえた。

 その後、4番から1番に回っていた大西が2死満塁から左前に勝ち越し2点適時打。結局9回は打者13人7安打の猛攻で1イニング8得点。8回まで3安打の打線がウソのようだった。

 西村はものまねが得意なチーム一のムードメーカーだ。この日もベンチで監督の横に陣取り、声を張り上げ続けた。兄弟校の智弁和歌山や下級生の頑張りにも触発されていたという。「3年間、悔しい思いで練習してきた。最後に打ててうれしい」と声を弾ませた。

 小坂監督は大物食いで知られる。智弁学園で選手として出場した95年夏は、圧倒的有利と見られたPL学園、07年は同校監督として佐藤(由規=ヤクルト)を擁した仙台育英に勝利。横浜撃破も執念のたまものだった。今大会は天理の出場辞退で県内敵無しと言われた。そんな逆プレッシャーの中、小坂監督は準決勝直後に39度の熱で倒れたこともあった。全国レベルで勝てるのかという葛藤も一気に吹き飛ぶ大金星。奈良の智弁が今夏の台風の目になる。【菊川光一】