<全国高校野球選手権:如水館3-2能代商>◇16日◇3回戦

 もう秋田は弱くない。能代商が、如水館(広島)に延長12回の末にサヨナラ負けし、県勢16年ぶりの8強入りを逃した。1回戦神村学園(鹿児島)戦は打線の活躍で県勢初戦敗退記録を13でストップ。2回戦では、左腕エース保坂祐樹(3年)が英明(香川)のプロ注目左腕・松本に完封で投げ勝ち、「弱小県」のイメージを完全に拭い去った。県高野連は、軟式野球部出身の中学生向けに、硬式球に慣れる機会をつくるなど、強化を進めている。

 悲鳴と歓声の中、保坂がマウンド上でガクッと膝を落とした。延長12回、2死一、三塁。こん身の127キロ直球が、無情にも左前へ抜けていった。「出せる力を全て出した。打ったバッターが上」。死闘を終えたナインに、球場全体から拍手が送られる。「秋田の歴史は変わったぞ!」の声も聞こえた。

 昨夏、初戦で鹿児島実に0-15と大敗した。3日の抽選会。山田一貴主将(3年)は、同じ鹿児島代表の神村学園の主将がガッツポーズをしたことを耳にした。「連敗で、秋田は弱いイメージがついている」。リベンジとともに秋田の思いも背負い、じくじたる思いで初戦に臨んでいた。

 1、2回戦と「弱小」の呪縛を解き放つ快進撃。その中心に保坂がいた。打者に対してプレートの左端に立ち、右足をクロスさせて腕を振る。172センチ、62キロのきゃしゃな体だが「武器は角度です」。130キロに満たない直球と、スライダー、カーブだけで秋田大会から全9試合、1072球を1人で投げ抜いてきた。

 昨春、本職が投手の畠山慎平遊撃手(2年)の直球を見て「やめちゃおうかな」と母淳子さん(49)にこぼしたこともある。だが、昨夏の甲子園でKOされ、自覚が芽生えた。創意工夫を重ね、2回戦ではドラフト候補左腕の英明(香川)松本に完封勝ち。この日は9回も先頭打者を出したが、最後まで崩れず「大舞台でも、自分を信じて投げられた。本塁打を50本打てるバッターも、150キロを投げられるピッチャーもいないけど、全員野球で勝てた」。言葉の端々に、確かな自信がのぞいた。

 地道な強化策が、実を結んだ。県は今年1月から「5年以内に甲子園ベスト4」を目標とするプロジェクトを開始。県を8地区に分けて、21日から軟式出身の中3を対象に硬式球に慣れる場を設ける。能代市野球協会は、08年から中3を対象に同様の「野球塾」を実施。この日の先発9人中8人が受講しており、能代商は同プロジェクトの「先駆け」として、今後の秋田勢躍進に向けた明るい材料にもなった。

 同校は、13年に能代北と統合するため、現校名での夏は来年が最後になる。「去年は憧れの場所。今は現実の厳しい場所。このユニホームで戻ってきたい」と工藤明監督(35)。1つの答えを出した能代商が、大声援を受けて甲子園を去った。【今井恵太】