<高校野球岩手大会:花巻東9-1一関学院>◇19日◇準決勝◇岩手県営野球場

 ついに出た、160キロ!

 今秋ドラフトの目玉、花巻東・大谷翔平投手(3年)が、岩手大会準決勝の一関学院戦で今夏初先発。6回2死二、三塁のピンチで見逃し三振を奪った直球が、岩手県営野球場のスピードガンで160キロを表示した。01年夏の甲子園大会で日南学園・寺原隼人(現オリックス)が出した158キロを抜く“高校生最速”に、日米12球団のスカウトは舌を巻いた。7回を3安打1失点の13奪三振で9-1の7回コールド勝ち。25日の盛岡大付と対戦する決勝に進出した。

 まさに怪物だった。「ピンチの方が、気持ちも調子も上がる」の言葉どおり、大谷のボルテージは最高潮に達していた。6回2死二、三塁。初球で157キロをたたきだし、154キロ、157キロ、159キロ、157キロ。そして3ボール2ストライクからの6球目に、その瞬間は訪れた。「自信のあるストレートでいく」と投じた内角低めは、球場のスピードガンで、高校生最速の160キロを計測した。電光掲示板に映し出された「160km/h」にスタンドは大きくどよめき、拍手が湧き起こった。

 「低めに球威のあるボールがいった」と右手を握り締め、雄たけびを上げる大谷とは対照的に、手が出なかった一関学院の5番鈴木匡は「地面につくぐらいの球でボールと思ったけど、浮き上がってきた」とぼうぜん。13三振のうち、これが唯一の見逃し三振だった。全99球中40球が150キロを超えた。最初から最後まで、球場の視線をくぎ付けにした。

 「甲子園

 163キロ」。花巻東のウエートトレーニング場には、こう記された紙が貼ってある。佐々木洋監督(36)は「160キロは現実味を帯びてるから、お前は目標を163キロにしよう。160キロなら158キロ、163キロなら160キロになるから」と、入学時点で143キロを投げていた大谷に告げた。元気よく「はい!」と答えた大谷だが、何と佐々木監督から言われる前に、自ら紙に書いて貼っていたという。佐々木監督は「目標は人を引っ張ってくる。大したもんです」と飽くなき向上心に感心する。大谷は「監督さんと頑張ってきた数字。無理と思わず、頑張ってきた」と笑顔で大粒の汗をぬぐった。

 1年春からレギュラー。昨夏の岩手大会に続いてエースナンバーを背負う。13日の3回戦(対水沢工)で自己最速を2キロ更新する153キロをマークした。それを7キロ更新する驚異の数字とともに、7回3安打1失点と上々の出来で夏初先発を飾った。打っては、3回に初回の失点を帳消しにする同点の適時二塁打を放つなど3打数2安打。3季連続の甲子園出場に王手をかけたが、佐々木監督と入学時に交わした約束はまだある。「甲子園で日本一という、もう1つの約束を果たしたい」。圧巻の大台到達も、大谷にとっては通過点にすぎない。【今井恵太】

 ◆球速メモ

 80年以降、高校生では寺原隼人(日南学園、現オリックス)が01年夏の甲子園で出した158キロ(スカウト計測)が最速。甲子園以外では佐藤由規(仙台育英、現ヤクルト)が07年9月の日米親善大会で157キロを出している。プロ野球でも160キロ以上は08年クルーン(巨人)=162キロ、10年由規(ヤクルト)=161キロ、09年林昌勇(ヤクルト)と今年7月5日のマシソン(巨人)=160キロの4人だけ。