<全国高校野球選手権:浦和学院11-4聖光学院>◇17日◇2回戦

 抜群の安定感を誇ったエースが崩れた。聖光学院(福島)が浦和学院(埼玉)に完敗。今春のセンバツに続き2回戦で姿を消した。先発の岡野祐一郎投手(3年)が精彩を欠き、自己最短の3回9安打6失点でKO。打線は初回に園部聡一塁手(2年)の本塁打で3点を先制したが、その後はつながりを欠いた。悲願の全国制覇を果たせなかった3年生の思いは、主砲園部ら後輩たちに託された。

 岡野の強すぎる気持ちが、投球を乱れさせた。初回から長井涼捕手(3年)の要求通りにボールがいかない。直球が低めに決まらず、球速も130キロ台前半だった。3点をもらった直後の2回1死一、二塁。真ん中に入った131キロ直球を、左中間に運ばれた。「力が入りすぎて、球が真ん中に集まってしまった」。さらに連打を浴びて逆転を許す。公式戦初の1イニング4失点。「低め低めに投げれば負けない」と言い続けてきたエースが大一番で崩れた。

 3回に入っても修正できない。1死後、真ん中高めに浮いたスライダーを本塁打されるなど2失点。斎藤智也監督(49)は「どこまでもってくれるかと思ったが、球威がなかった」と我慢しきれず、交代を命じた。3回9安打6失点。自己最短KOだった。

 調整はいつも通りだった。「少し肩に張りがあった方がいい」と、試合前日でも80~100球を投げ込んだ。完投した次の日も休まず、ランニングや筋トレを行う。「張りをなくすことはできても、作ることはできない」と、マッサージは筋肉をほぐす程度。「岡野流」の調整で今春は東北大会優勝し、今大会も1回戦で日大三相手に4安打完投勝利を挙げるなど結果を出した。今回も前日に94球を投げ「調子は上がっている」と、万全な状態で臨んだはずだった。

 センバツで横浜に敗れた後、球速アップを目標に体幹を鍛えた。かつて女子サッカーの日テレベレーザで日本代表FW大野忍(28=INAC神戸)らのトレーナーを務めた大高茂氏(39)の指導のもと、「なでしこ流」のチューブトレーニングで下半身を強化。臀部(でんぶ)に筋肉が付き、最速は140キロまで伸びた。一般入試で入学し、エースの座をつかんだ努力の男は心身ともに成長。しかし、またも全国の壁に阻まれた。「力んで自分のピッチングができなかった。未熟でした」と悔やんだ。

 後輩たちにはメッセージを送った。降板後はベンチで声を出して味方を鼓舞。バット引きも率先して行った。「できることを一生懸命やった。(気持ちが)伝わってくれれば」と静かに言った。岡野が帽子のつばに書いた“氣”の文字を、先制3ランを放った2年生4番・園部が帽子に小さくしたためていた。全国制覇への思いは、確かに受け継がれる。【鹿野雄太】