<全国高校野球選手権:仙台育英11-10浦和学院>◇10日◇1回戦

 仙台育英(宮城)が今春センバツ優勝の浦和学院(埼玉)に9回サヨナラ勝ちした。前半は両チームエースが崩れ、点の取り合いに。6安打と打ち込まれた先発・鈴木天斗(たかと)に代わり3回途中から登板した馬場皐輔投手(ともに3年)が回を追うごとに調子を上げ、8三振2失点と好投。県大会での不調を振り払う気迫のピッチングで、勝利を引き寄せた。

 2時間59分の長く苦しい試合を制した。10-10の9回2死一塁。熊谷敬宥内野手が左翼線ぎりぎりの二塁打を放つ。懸命に走った一塁小野寺俊之介内野手(3年)がホームにスライディングするのを見届けると、仙台育英ナインはベンチから勢いよく飛び出し歓喜した。ベンチ前でキャッチボールをしていた馬場は熊谷に「信じてるよ」と声をかけていた。それに応えるように熊谷が一振りで激闘を終わらせた。

 今春センバツ優勝の浦和学院と昨秋神宮大会優勝の仙台育英。甲子園球場を満員にする大会屈指の好カードは思いもよらぬ展開となった。初回、三塁手加藤尚也(3年)の失策をきっかけに先制され0-1。だがその裏、浦和学院の左腕・小島和哉(2年)が崩れた。3度の押し出しと鈴木、熊谷の適時打で一挙6点を奪い、一気に勝利ムードを作った。

 だが、そのままでは終わらない。今度は3回表にエース鈴木が浦和学院打線につかまった。5安打と四球、死球を与え降板。鈴木に代わり、馬場がマウンドに上がった。馬場は「(鈴木)天斗と(上林)誠知がだめだったら全員で野球をしなくてはと思った」。エースが崩れ、主砲が無安打に抑えられる中、責任感を感じて投げた。

 4回に1点を失うも、そこから7回まで無安打に抑えた。同点の8回には無死三塁のピンチを迎えたが、続く3人を打ち取った。「こんな気持ちで投げたことない。アドレナリンが出ました」。時々「よっしゃー」と叫びながら、必死の投球を続けた。

 宮城県決勝では初回に5失点したこともあり、佐々木順一朗監督(53)は鈴木を下げずに右翼に残した。だが「馬場がだんだん球が良くなったので」。7回表に鈴木を下げ、馬場に任せた。

 甲子園の激闘のイメージはこの4カ月間、頭の中で何度も描いていた。優勝候補に挙げられながら8強に終わったセンバツ後、自宅通いの馬場は毎日30分の自転車通学の際、浦和学院打線に向かって投げる自分の姿を想像し続けた。それでも「ナイターは想定外でした」。4試合目でマウンドは穴だらけ。一瞬も気の抜けない状況。それでもピンチの度に天を見上げ、気持ちを落ち着かせ、イメージ通りに相手をねじ伏せた。

 悲願の白河越えへ「千載一遇のチャンス」(上林)と乗り込んだ甲子園はどんでん返しの大激闘で始まった。佐々木監督は「エラーもするし、ピッチャーは打たれる。それでも『それがウチだよ』とやってきた。今日もうまくいかないことが起きても励まし合えた」。完璧なチームではないからこそ、固い絆で結ばれたナインがここから頂点を目指す。【高場泉穂】