あれれ…、指揮官がダウン…。第86回選抜高校野球大会(21日から12日間、甲子園)に出場する32校による甲子園練習が17日、甲子園球場で始まり、初日は16校が30分ずつ練習を行った。優勝候補の横浜(神奈川)は、渡辺元智監督(69)がインフルエンザに感染したため、監督不在で練習を行った。甲子園通算51勝を挙げる名将だが、小倉清一郎コーチ(69)によると、甲子園練習を欠席したのは初めて。幸い1回戦は第6日で、回復する時間は十分あるが、思わぬスタートになった。

 午後4時開始の甲子園練習に合わせて、一塁側ベンチに続々と選手が登場したが、指揮官が現れない。小倉コーチと平田徹部長がノックバットを持ってグラウンドに向かっても、最後まで渡辺監督は姿を見せなかった。ざわつく報道陣に、インフルエンザ感染が伝えられる。二人三脚で数多くのプロ選手を育てた同い年の小倉コーチは「やっぱり年だね。力入れて練習して、疲れが出たんじゃないかな。(欠席は)初めてですね」と心配した。

 渡辺監督は14日の抽選会では元気な姿を見せていたが、前日16日に大阪入り後、体調不良を訴えたという。薬を服用していたため発熱は38度台だったが、病院でインフルエンザと診断された。すでに横浜ナインにもインフルエンザが流行し、14、15日は寮を閉鎖して各自が自宅から通学した。渡辺監督の孫、渡辺佳明内野手(3年)も感染。自宅で一緒に過ごす時間もあり、うつした可能性は「あるかもしれません」(渡辺)とばつが悪そうだった。

 ただ指揮官は不在でも、選手たちはハツラツと動き回った。冒頭10分間のノック、ボール回しではわざと暴投してクッションボールを確認。左鎖骨の疲労骨折から復帰したドラフト候補の浅間大基外野手(3年)はシート打撃で2安打。同じくドラフト候補の高浜祐仁内野手(3年)は、左翼線に痛烈な二塁打を放った。圧倒的な打撃力で不安を一掃。高浜は「不安はないです。試合まで時間はあるので」と動じなかった。

 今日18日は大会前最後の練習試合を予定しているが、小倉コーチが“監督代行”を務める。「行くしかないね。かぜひかないのは私だけですよ」と豪快に笑った。8日の練習試合解禁以降は7勝1敗、日体大に敗れただけで、高校相手には全勝と好調をキープする。幸い初戦は第6日で、宿舎静養中の渡辺監督が回復する時間は十分ある。8年ぶりの優勝へ、復帰した指揮官も驚くようなチーム力に仕上げていきたい。【前田祐輔】<甲子園の主な病気アクシデント>

 ◆インフルエンザ

 09年夏の立正大淞南は、大会中に3選手と練習補助員2人の計5人が新型インフルエンザに感染。3回戦の東農大二戦はベンチ入り14人で臨み、4-2で逆転勝ちして8強入りした。

 ◆風邪

 58年春の済々黌は、雨中の1回戦(対清水東)でレギュラー6人が風邪をひいた。エース城戸博は2回戦の新潟商戦で38度近い熱を出しながらマスクをつけて登板し、16奪三振で2試合連続完封。準々決勝では王貞治の早実を下すなど勝ち上がり、九州勢として大会初優勝した。

 ◆赤痢

 62年夏、作新学院のエース八木沢荘六が、開会式当日に赤痢の症状で緊急入院。代役を加藤斌が務め、チームは史上初の甲子園春夏連覇。

 ◆食中毒

 90年夏の高崎商は選手11人に下痢症状が発生。レギュラー4人がベンチ入りできず、沖縄水産に1-7で敗れた。98年春の日本航空は初戦の前日に、食中毒のためベンチ入り3人を含む9選手や、教師、父母ら計12人が腹痛、発熱を訴えた。初戦は3安打ながら4-3で仙台育英に逆転勝ち。なお、日本航空と同じ宿舎の松坂ら横浜ナインは無事だった。