<高校野球宮崎大会>◇16日◇1回戦

 第92回全国高校野球選手権宮崎大会が16日、開幕した。口蹄疫(こうていえき)問題の影響で、開幕は当初から6日繰り下げられ、開会式は中止。部員の保護者らを除き一般観客の入場を認めない異例の“無観客試合”となったが、無事に開催された。1回戦では畜産科がある高鍋農が小林と対戦。実習用に生徒が飼育していた牛が口蹄疫に感染し、校内の牛と豚が334頭が殺処分された。つらい経験をしたナインは全員で励まし合い06年以来の夏の勝利を目指したが、結果は1-6で敗れ、初戦突破はならなかった。

 高鍋農の「特別な夏」が終わった。結果は1-6だったがナインは精いっぱい力を出した。0-6とコールド寸前まで追い詰められた7回には7番黒木裕生捕手(3年)の二塁打で1点を返し、意地を見せた。両ベンチの上に関係者が陣取ったがバックネット裏に人影がない無観客試合となった。それでもナインは最後まで声を出し、全力プレーでスタンドをわかせた。

 宮崎県内で猛威を振るった口蹄(こうてい)疫は学校の牧場で飼育していた家畜にも感染した。5月23日、校内の牛53頭と豚281頭が殺処分された。殺処分の日は休校となり、牛舎と豚舎の隣にあったグラウンドは1週間閉鎖され練習できなかった。レギュラー中、畜産科の生徒は4人。毎日世話をしていた家畜を失った。「生徒にとって家畜は生活の一部。それが突然なくなったんですから最初は練習にも集中できなかった」と塩月嘉仁監督(38)は当時の様子を思い返す。家が畜産農家で、家の家畜が殺処分された選手も多数いる。それでも「練習したくない」という選手は1人もいなかった。「みんなが前向きになれたのは野球があったからです」と語る塩月監督。野球がナインの支えとなった。

 試合前に学校を出るときに全員でグラウンドに集まり黙とうした。「命の大切さを忘れてはだめだ。命をいただいて生きていて、みんなはそのおかげで野球ができるんだ」と塩月監督は選手に話をして球場へ向かった。

 畜産科で豚の飼育を担当していた8番松浦文也外野手(3年)は2安打を放ちチャンスを作った。チームで唯一の打点をあげた黒木も畜産科の生徒だ。「おれたちつらかったけどみんなで頑張ったから、安らかに眠ってほしいと思います」と田村栄二主将(3年)は涙で声を詰まらせた。部員はほとんどが農家を目指して勉強を続ける。【前田泰子】