今オフは、メジャー史上でもかつてないほど動きの少ないFA市場となっているが、その状況に一番激怒しているのがスーパーエージェントと呼ばれる辣腕(らつわん)代理人、スコット・ボラス氏だ。これまで次々と大型高額契約を勝ち取ってきた同氏だが、今オフはお抱え選手のうち、FA上位にランクされる10人以上の選手が1月下旬になっても契約を結ぶことができていない。

 J・D・マルティネス外野手(ダイヤモンドバックスFA)、ジェーク・アリエタ投手(カブスFA)、エリク・ホズマー内野手(ロイヤルズFA)らがそうで、特にマルティネスは昨季45本塁打を放ってダイヤモンドバックスのプレーオフ進出に貢献し、FAランキングのトップ3に入る大物だが、争奪戦はまるで起こらず、これまで獲得に興味を示していると伝えられたのがレッドソックスくらいだ。

 この状況に黙っていられないのがボラス氏だ。新進気鋭の米スポーツメディア「アスレテック」のインタビューで「MLB球界は(ブラックソックス・スキャンダルが起こったとき)、試合にわざと負けたヤツらを追放した。我々は今回も、勝とうとしない球団、つまり球界の“ガン”を追放すべきだ」と主張している。

 ブラックソックス・スキャンダルとは、1919年にシカゴ・ホワイトソックスの一部選手がワールドシリーズでわざと負ける八百長を行った事件。シンシナティ・レッズに3勝5敗で負けたのだが、その後に賭博がらみの八百長が発覚し、容疑のかかった8選手が刑事告訴され、永久追放された。

 そんな、メジャー史上最も忌まわしい八百長事件と比べるのはさすがにどうかと思うが、ここ最近のメジャーには勝つよりも、ドラフト全体1位の指名権を欲しがる球団があるように見えてしまうのも事実だ。つい最近、マリナーズのジェリー・ディポトGMも「ワールドシリーズ制覇を争うより、ドラフト全体1位指名権を争う方が厳しい戦いになっている、ということもいえる」などと冗談交じりに口走っている。ドラフト全体1位指名権は、前年のシーズンで最も多く負けた球団が獲得することができるため、あえて勝ちにいっていないという疑惑が出てくるのも無理はない。しかし、これまではシーズン終盤で負けが込んできたチームがドラフト指名権獲得競争にシフトする例はあっただろうが、シーズン開幕どころかまだオフシーズンの段階からシフトしてしまう球団は、まずなかったのではないか。

 ボラス氏は憤りを隠さず「我々は、チームを支えてくれるファンに、数年後に勝ちますからと言って、勝負を放棄していいのか。それはベースボールに対する冒涜(ぼうとく)である」と徹底批判。同氏の主張がすべて正しいかは別として、この指摘が現在のメジャー球界で問題化しつつあるのは確かだ。